いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
(お前のこと好きになって、知ってくことばっかりだよ、立花)
目を開けて、再び行き交う人たちを眺める。その中に、無意識にあの笑顔を探した。
いないとわかっていても、頭の中で穏やかな声が響いてしまって。
その声に安堵して力を抜くと、途端にどうしようもない虚無感が身体中を這って覆いつくそうとする。
まるで、真衣香が傍にいない自分になど、何の価値も見出せないと訴えるように。
「また……言ってくれないかなぁ」
いつだったかの、言葉を。
『隠さないで全部見せてほしいの』
無垢で、真っ直ぐで、ひたむきな声が。あの日確かに、坪井の心に触れた。
それなのにどうして、信じ切れなかったんだ。どうして、踏みとどまれなかったんだ……あの夜に。何度となく繰り返してきた後悔。
押しつぶされそうな胸は、無意識に彼女の名を小さく小さく呼んだ。
「立花……」
会いたくてたまらない。
抱きしめたくて、抱きしめられたくて、たまらない。
(情けなくて狡い俺でも、あの笑顔で、大好きだよって、全部見せてって……そんな)
夢みたいなことばかりを思っているけれど、欲しいものはそれだけだ。たったひとつだけなんだ。
――どれくらい、店の前で立ち止まっていたのか。
ドアが開いたようで、店内の騒音が耳に届く。振り返ると「出たいんですけど、いーっすか?」と、腕を絡め合う男女に軽く睨まれてしまった。
それもそうだろう、店の出入り口の真ん前で立ち尽くしているなんて邪魔者でしかない。
「あ、すいません。どーぞ」
とっさに貼り付けた笑顔で答えて、ゆっくりと。
ひとり、聖夜に溶け込むよう歩き出した。
この一歩がいつか。真衣香のもとに繋がってくれますように。
この願いが、届きますように。
信じてもいない神に、この瞬間ばかりはそんなことを祈ってしまったのだから。
藁にも縋りたい、そんな気持ちでメリークリスマス。