いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
「あ、総務まだ電気ついてる〜」
「八木さんいるのかな? 立花さんも一緒かな?」
「どうだろうねー。ほんとに付き合ってるのかな?」
「私、去年はさりげなく経理の友達と八木さん誘ったんだよ〜、クリスマスね、飲みに。もちろんバッサリ断られたんだけど〜」
黙ってその声を聞いている八木は、全く表情を動かさなかったし。特に、聞こえてきた会話に関して何かを話してくれそうな雰囲気も感じない。
真衣香は仕方なく「……こ、こんな感じで、八木さんのクリスマスのご予定は噂の的ですよ……」と、ボソボソっとつぶやき声で言った。
そう。昨日もだったけれど、更衣室やトイレなどで散々視線を浴びたし。何なら数人には実際に問い詰められたりもした。
『八木さんとほんとに付き合ってるの?』
から始まり。
『やっぱクリスマスは一緒に過ごす予定になってるの? いいなぁ』
だったり。
『坪井くんとは付き合ってないんだよね? 予定知ってたりする?』
などなど。
若干慣れてきたりもするやり取りだったけれど。
悲しいかな、実際のところ真衣香に答えられる質問など全くなかった。
……なかったのだが、坪井と八木がいかに目立つ存在で、真衣香が深く関わったことが"おかしなこと"だったのか、それを改めて実感することになった。
そんなものだから、普段の昼休みランチのテンションと、さほど変わらない八木の言葉に真衣香はとても驚いていたのだ。
(モテすぎると、色々麻痺でもするのかな……経験ないからわかんない)
真衣香はそんなことを思って八木をジッと見つめた。その視線に気が付いたのか、八木も真衣香をジッと見て、しかしすぐにふいっと横を向いてしまう。
そして、少し不貞腐れたような声で言った。
「あのなぁ、一個確認するけど」
「はい?」
「お前忘れてないか?」
「何をですか?」
聞かれていることが何なのか、さっぱり分からない真衣香は素直に首をかしげた。すると隣に座る八木は、視線を合わさず横を向いたまま、盛大なため息と共に答えた。
「そりゃ、お前をどーこーしたいわけじゃねぇって言ったけど。お前のこと好きだって言ったろ。俺は」
「………………あ、は、はい」
「クリスマスなんだろ。んなこと知ってるし、好きな女を誘って何か問題あるか」