いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
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部屋に入った時の、冷えた空気が随分と暖められた。
坪井が声を詰まらせ静かに涙を流した時間など、ほんの数分の出来事で。けれど真衣香にとっては大きな愛おしさと、好きでいることの覚悟を再認識させた大切な時間となっていた。
「……ごめん、痛かった?」
いつのまにか、抱き寄せられていた身体は解放されて、代わりに端正な顔が真正面からしっかりと真衣香を見つめる。
声を詰まらせ感情を昂らせた後だとは思えないほどに、穏やかな問いかけだった。
「うん、大丈夫だよ」
「……今更だけど今日会えると思わなかった」
ふにゃっとした、弱々しい笑顔を見せた坪井。それはまさに初めてみる種類の笑顔だった。
嬉しさや恥ずかしさを紛らわせるように、
「うん、ごめん、急で」
と。真衣香が改めて頭を下げると、両頬を包むようにして、それを阻止された。
そうしてグイッと優しく上を向かされて。
眉根を寄せた切なげが表情が、真衣香から目を逸らさない。
「違うよ、嬉しいって言ってる」
「坪井くん……あの」
「……嬉しいんだけどさ」
「え……」
徐々に顔が近づいて、唇が重なった、ほんの一瞬の軽いキス。
「よかったのかなぁって」
「な、にが……?」
突然触れ合ったキスに驚いて、気の抜けた声を返した真衣香に坪井が再び口付けた。先ほどよりも深く、唇を食べられているかのように包み込むキスだ。
「来てよかったのかな、ここに」
「ここに?」
「うん、俺のとこに」
坪井は心細そうに呟きながら、真衣香の首筋にゆっくりと舌を這わせ時々噛むようなキスを繰り返す。
そして少し上を向き、思い返すように、懐かしむようにゆっくり言った。
「俺、初めて会った時からお前のこと好きだったんだよね多分」
「初めてって……」
「この間の合コンじゃないよ、もちろん。新人研修の時」