いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
坪井side④ 初恋のわすれもの
くしゅん、と隣から小さなくしゃみが聞こえて坪井は目を開けた。うたた寝していたようだ。
布団の中に潜り込むように丸くなって、頭だけが少し見える。
それを少しずらし、頬に触れると予想よりも冷えていた。
「……やべ、寒かった?」
掠れた声が出て、軽く咳払いをする。
乾燥した冬の空気。エアコンの効きよりも、気温の低さが勝って部屋の中はヒンヤリと冷たい空気が流れてしまっている。
自分にはそれくらいがちょうど良かったのだが、真衣香には寒かったのかもしれない。
リモコンに手を伸ばし温度設定を上げてから、腕の中に包むようにして抱き寄せる。
サラリとした感触の肌。自分の身体よりも冷えてしまった華奢な感触を、暖めたくて。
(あーー、ヤバい幸せだ)
けれどじんわりと暖かくなったのは、真衣香の身体よりも自分の心臓だった。
(てか何回したんだろ、朝までとかさすがにないな)
自分の性欲に若干呆れながら思い返すのは、つい先程まで見ていた窓の外の景色。
夜が明けていこうとする冬の空をカーテンの隙間、真衣香を抱きながら横目に見た。
空の色の変化を惜しんだのはきっと初めての経験だったろう。
街明かりの中にある漆黒に、少しずつ淡いブルーが混じり、やがてピンクのようなオレンジのような。どんな表現が正しいのかさえわからない穏やかな色に変化してゆく。
そんな淡い陽の光を真衣香はギリギリ見ることがなかったかもしれない。
気を失うように眠りについてしまったから。
寂しいと思った。欲しくて欲しくて堪らなかった女を初めて抱いた夜が終わることを。
(あーあ、全然優しくできなかった……のに)
何度抱いても足りないと、求め続ける。焦げ付きそうな感情を受け止めてくれるよう、抱き寄せてきた細い腕。
守ってやりたい存在に、守られているようで。挙句それが心地良く、全てを預けて力を抜いてしまいたくなって。