いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました


出てきたばかりのカフェの自動ドア横の外壁に背中をぶつけて、優里は後ずさることをやめた。
いや、正確には身動きが取れなくなった。

「優里ちゃんの行き過ぎた要求を俺が突き返したって何の問題もないし」

優里が、肩から下げているトートバッグの持ち手をギュッと握りしめるのを横目に、畳み掛ける。

「もっと言うなら、俺が信じててくれって立花に言えばぶっちゃけそれで済む」
「そ、それで済むって……」
「優里ちゃんさ、俺があいつに自分のいいようにしか青木のこと説明してないって思ってる?」

再び、グッと息を止めるかのように黙り込んだ優里を表情なく坪井は見下ろした。

「親友とか言っときながら舐めんなよ、知ってるよ立花は。俺が青木芹那を、他の女をどんなふうに扱ってきたか」

「だから青木のことを、立花と別れさせる切り札にしようとしてんなら使えないよ」と、続けて言ったが、優里は特に口を挟もうとはしない。

「あいつがどんな思いで俺のとこ戻ってきたか知ってんのかって聞いてるんだよ」
「そ、それ……は」
「てゆーかさ、こんな面倒ごと今ここでお前どーにかして、話そのもの消すことの方が俺にとっては簡単なんだけど」

そこで言葉を区切ってから、坪井は一層声を低くして、ゆっくりと問いかけた。

「しないの、なんでだと思う?」
「わ……わからない」
「声小さいね、さっきから。聞き取れないけど」

掠れた優里の声を煽る。悔しそうな顔の中、怯えたような瞳。

「俺が自分のために、あいつを手離さないかわりに、守るって決めてる。面倒なことからも逃げないって腹括って、あいつの強さに甘えてんの、今の俺」

こんな女に、こんな提案を聞き入れるほど。
腑抜けだと思われていたのか。
そう思うと、苛立ちがさらに募る。

「でもまあ、そっちの言うことも一理あるよな。青木の存在にあいつが振り回されないようにするには、こっちから話つけるのが一番だろ」

波打つ感情を逃がそうと、優里の顔、そのすぐ横の外壁を殴りつける。「……ひっ」と小さく上がった悲鳴を聞きつつ、吐き捨てるように言った。

「だから、青木にも会う。貸せよ」
「な、何……を」
「スマホだろ? いいよ、別に連絡先くらい。ことが済んだら俺IDも番号も変えるし」
「え?」
「ちょうど、他の女もしつこいのいたからさ、一緒に消せるじゃん」

冷ややかな坪井の笑みと、その口から出てきたセリフ。顔のすぐ横に訪れた衝撃。
優里は顔を引き攣らせた。
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