いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
「……会って、話したい……?」
『うん、顔見て……お前の顔見て話したい』
坪井の態度や言葉に、珍しい……と驚くには、まだ経験が浅いけれど。
”きちんと”付き合い始めて、ようやく一ヶ月が経ったくらいではないだろうか。
その間、平日に限って言えば一緒に帰ることはあっても、こんなふうに”会いに行ってもいい?”と、突然の言葉は初めてのことだった。
(……いつもと違う。私が知ってる限りの坪井くんと比べて、だけど)
「うちに来てもらっていいの? 何かあったなら私が行く……」
『なーに言ってんの、お前もう風呂入ったでしょ』
自分がそっちに向かうから、と。提案をしようとしたが。
最後まで声にはさせてもらえなかった。
「……どうしてわかるの?」
『仕事そんなに遅くならなかったらいつもこの時間には風呂上がってるじゃん』
よく知ってるね、と。照れ隠しでモゴモゴ返した真衣香に『お前のことは何だって知ってたいからね』なんて。
まるで当たり前のことみたいに、言った。
(今の坪井くんの雰囲気……私のこと喜ばせてる場合じゃなさそうだよ)
しかし、それを顔の見えない電話で言ったところで真衣香の真意はうまく伝わらないかもしれない。
だから。
「うん、わかった。じゃあ、待ってるから。早く来てね、坪井くん」
おとなしく坪井を待つことにした。
『……ありがとな』
返ってきたその声が、あんまりにも頼りなくて。
昼間に聞いた甘く優しい声とはまるで違う。全く別のものだったから。
漠然とした不安が募る。
けれど突き放されたあの頃に比べればどれほどに幸せだろうか。
だって彼の身に起きているかもしれない何らかの変化を、共有させてもらえるのかもしれないのだから。
不安と幸せ。相反する感情を抱えながら。
真衣香は、通話を終えたスマホを手のひらでギュッと包み込んだ。