いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました


真衣香が大きく目を見開いたことに、そして息を詰まらせたことに、気配で気が付いたのだろうか。
抱き寄せていた身体を離して距離を取った坪井は、じっとのぞき込むように真衣香の顔を見た。

「待って違うよ。青木に会いたいだとか好きだとか、そんなんじゃないから」
「うん……」

ハッキリと言葉にして真衣香の不安を消そうとしてくれているのだろうに。
曖昧に頷くだけで、坪井の目を見つめ返すことのできない自分が悔しい。
 
「……優里ちゃんが言ってたんだ。青木のこと、お前はこれからもずっと気にしていかなきゃいけないのかって」

正直、まだ優里の名前が坪井の口から発せられているという事実にさえ追いつけていない真衣香は黙ってその声の続きを待った。

「確かに、それも一理あってさ。昔の話がお前との間にずっとチラつくのも嫌だなと思ったんだよ」

正論だ、と。真衣香は思う。
綺麗な理由だと確かに、思った。

……けれど、無意識に部屋着のパーカー。その胸元をギュッと掴んで力んでいる自分がいた。

喉まで声が出掛かって、必死に押し込める。
そんなことはどうでもいいから、だから。
”会わないでほしい”と、心の奥で叫んでいる。
 
叫んでいるのは、彼を信じることを拒んでいる真衣香自身だ。

「……そうだね、芹那ちゃんは坪井くんにとって特別な人で……ずっと今も坪井くんの心の中にいる人で……」

坪井は真衣香の声を聞いて、小さく呻き声を上げた後、苦しげに「嫌な思いさせてごめん」と言った。

”否定しないんだね”とは、言えなかった。
思ったくせに、心の中に一番に浮かんだくせに。なぜだか声にしてしまったら、虚しくなるだけのような気がして。

思い出には勝てないと、どこかで聞いた。
言い得て妙とはまさに。

坪井の手が、ゆっくりと黙ったままの真衣香の指先に触れてきたけれど、ただただ切ない。

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