いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
けれど本音との対話から逃げても胃の重みが消えないことは、もう知っていた。
ベッドに座り、頬をペチペチと叩いて己を律する。
真衣香の本当にしたいことは、そんな〝運命〟かもしれないものを引き裂いて、芹那を傷つけるだけの行動なのかもしれない。
坪井から本当の相手を遠ざける行為なのかもしれない。
それでも真衣香は、坪井の傍にいて知っていったから。
いつだって、誰にとっても害のない人間でいることなど不可能であること。
みんな、いつだって、誰だって、例外なく。
心に正直でありたくてもがいている。その葛藤に苦しんでいる。
(だったら、今しなきゃいけないことって決まってる……!)
勢いをつけてベッドから立ち上がった。
そうだ、心ままに動いたっていいはずだ。
彼に選んでほしい未来を、この手でたぐり寄せたっていいはずだ。
テーブルに置きっぱなしだったスマホの画面をタップする。時刻を見れば、もうお昼をかなり過ぎてしまった。
二人の待ち合わせ時間はかなり早い時間だったはず。
昨夜、少し遠い水族館に行くのだとメッセージが入ったその画面を見直して。
急がなきゃ、と。クローゼットを開けようとしたその時だ。
静かな部屋にインターホンの音が鳴り響いた。
まだ修理が終わっていないエントランスを抜けて、直接玄関の前から押されているであろう機械音。
普段は使うことがないのだから、ドアアイもついていない。
部屋の前にいる人物が誰なのかを中から確認する術はない。
けれど、二回、三回と音は鳴り続いた。
真衣香はそっと玄関のドアを開ける。隙間に指を滑り込ませ、強引に中に入り込んできた人物。
「どうもー! 久しぶり真衣香ちゃん! チェーンロック忘れちゃダメじゃーん」
視線の先では、まだ見慣れない知り合ったばかりの人物が困ったように眉を下げて笑った。
「いやー、聞いてたとおり! 危ないよ真衣香ちゃん、いくら真っ昼間でも、こーやって無理やり上がり込めちゃうって」
「……え?」
真衣香はポカンと口を開けて目の前に立つ、短い髪をツンツンとさせたグランジツーブロックのヘアスタイルの男性を眺めた。
黒のインナーの上にはくすんだイエローのベロア生地のスエット。派手な色でセットアップされてると、こう、とても目立つ。
おまけにジャラジャラと首から下げられているシルバーのネックレス。
見覚えのある顔でなければ叫びだしてしまいそうになる、真衣香には刺激が強く怖い印象を抱く風貌だ。