いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
終始明るく、そして穏やかな声で真衣香と話していた声が低く変化する。
「って、ことで、悪いんだけどちょっと急げたりする? できたら早めに出たいんだよね、俺の都合で悪いんだけど」
真衣香の前でごめんね、と申し訳なさそうに手を合わせる姿。
「うん」と、流されるままに返事をしたなら。
真衣香の様子を見てほっとしたように笑った隼人。
「じゃ、俺玄関前で待ってるからさ。用意終わったら出てきてくれる?」
「玄関前って、そんな」
真衣香は首を激しく横に振りながら隼人に言う。
「狭いけど入って待ってて。寒いんだし、風邪ひいちゃうから」
隼人は再び、ぶるっと肩をふるわせた後「お言葉に甘えちゃう前に」と、コソコソ真衣香に耳打ちした。
「絶対部屋に上がるような真似するなよって人殺しそうな目して言われたから、俺、涼太に。内緒してて、マジで絶対」
「わ、わかった……」
真衣香は首を何度も縦に振りながらも、人を殺しそうな目をした坪井を想像することさえできなかった。
どんなに好きでも、本当の彼氏になっても、身体を重ねても。知らない顔がたくさんあるみたいだ。
――着替えもしたい為、エアコンが効いている部屋まで上がってもらうわけにはいかない。真衣香は申し訳なく思いつつも隼人に玄関に入ってすぐのところで座って待ってもらうことにした。
パタン、と静かに寝室のドアを閉めて、自分を落ち着かせようと大きく息を吐く。
(え、なに、どうゆうこと?)
今日の芹那とのことを坪井は隼人に話しているのか。
(ううん、別に仲のいい友達なんだから……それは変なことじゃない)
しかし、ここから連れ出してドライブにでも連れて行けと言われたと隼人は言った。
(なんで隼人くんにそんなこと……)
頭の中に大きく疑問を抱えながらも、今しがた真衣香が行こうと思い立った場所へ一緒に行ってくれるというのだ。電車で行くよりも到着は早くなるだろうし、何より心強い。
真衣香は急いで身支度を始めた。