いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
坪井side⑤ 初恋のわすれもの
憎いほどに晴れ渡る空を見上げた。
駅前。黒のセダンを背もたれに、深くため息をこぼす。
手は冷えて、気を抜くと小刻みに震えだしてしまいそうで。寒さをしのぐ振りをしながら腕を組み、その手に力を込め続けた。
そんな己の様子に、はは……。と自嘲気味に肩をすくめたところで「坪井くん?」と、今聞きたくて仕方のない真衣香の声。それよりも少し落ち着いていて、しっとりと甘くまとわりつくような。
女の声が坪井の名を呼んだ。
「……久しぶり」
来たか、と。車にもたれかかっていた姿勢を正し彼女に向き合う。
ドクドクと激しい鼓動は、ときめきなんて甘いものではなく、酷く重い。
「うん、久しぶり」
照れたように頬に指を添え、はにかむ。
しかし、じっと品定めするような視線が上から下、そして下から上。その目は坪井の全身を見つめ続けた。
「何? そんな見て。どーしたの?」
何でもない振りして聞くと、顔を赤らめて答える。
「ううん。やっぱ坪井くんってかっこいいよね。会えて嬉しい」
「はは、そりゃど~も」と、軽く返しながら女と――青木芹那としっかりと視線を合わせた。
ずっと靄がかかるようにして思い出せなかった女の顔が、目の前にある。
確かに優里とどこか似通った系統の顔だ。
くっきりとした二重。真衣香のように優しい雰囲気の目元というよりかは、どこかキリッとした印象の切れ長の瞳。
けれど笑うとその目尻が下がり、ガラリと印象を変える。
ふわりと揺れるショートボブ。細くしなやかな首筋。
(髪は……ちょっと短くなった気もするけど、こんなだった気がするなぁ、昔も)
確かに、自分は恋をしていた、と深く実感する。
この柔らかな髪に触れたいと思っていた過去が、押し寄せてくる。
「ま、寒いから乗りなよ」
助手席のドアを開けてやると嬉しそうに顔を綻ばせた芹那。
その表情を懐かしむ思いが迫り上がって、笑みを絶やさないようにと力む口元の筋肉を歪ませた。
「ありがとね」
坪井の前を通り過ぎ車に乗り込む芹那から、甘すぎないムスクの香り。
(あいつは香水つけないからな……きつい匂いは久々かも)
真衣香を思い出しながら、芹那を目で追った。