いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
明るい髪色に、ネイビーのチェスターコート。黒のニットワンピースに合わせたベージュのパンプス。
肌触りの良さそうなマフラーを腕に掛けて。
(服装も、違うよな全然。当たり前なんだけど……あいつは、あんまり着なさそうな雰囲気)
女の目まぐるしい流行廃りをそこまで把握しているわけではないけれど、真衣香が好んでいる暖色系のほわほわとした雰囲気が今、もう恋しい。
真衣香以外の女をもう乗せる予定はなかった助手席に、芹那は笑顔で乗り込む。
過去と今を繋ぐ細い糸を踏みつけられたような感覚。坪井はそれを振り払うようにして小さく首を振り、ゆっくりと今日の目的を脳内で反復させる。
芹那が遠方に行きたいと言い出した理由は、大まかに二つだろう。
まずは、それを叶えることからだ。
気分をよくしてもらわなければいけないから。
坪井も芹那に続き車に乗り込み、気怠さを隠してシートベルトを引っ張り、カチッとはめ込む。
「んじゃ、行こっか」
微笑みかけると、芹那は当たり前のように坪井の手に触れ指を絡めてくる。
その動作を受け入れ、しなやかな手元に触れた。
まるで恋人にそうするように、握りしめる。
「うん」と、答えた芹那が笑顔を見せて。
その表情を観察しつつ、ゆっくりと手を離しハンドルに触れてアクセルを踏み込む。
ここに来るまでの一週間。やり取りは、恋人同士かのように親密なものだった。
嫌がらせなのだろうとは予想しているが、もちろん確証はないまま今日に至った。
こうして直接会えば、10年を埋めるには情報が足りない。他愛ない雑談、的を射ない世間話が続く中、高速に入る。適当に右手をハンドルに添えて、自由になった左手でまた芹那の手に指を絡める。
待っていましたとばかりに強く握り返された。
「真衣香ちゃんいるのに、いいの?」
伺うような視線に坪井は横目で答えて「いいから今日来たんじゃん」と、口角を上げる。
芹那は、満足げに笑顔を深めて身を乗り出し坪井の横顔に軽くキスをした。
「はは、移動は車がいいなんて言って聞かなかったもんね。甘えたかった?」
「もちろん」
「……可愛いんだけど、危ないから後でね」
坪井の言葉を聞いて「わかったー」と、ふて腐れたように言ったその横顔は、しかし上機嫌で。
やっぱり晴れ渡る空が憎らしい。