いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
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少し前を歩く両親を追って、坪井の隣を小さな子供が駆け抜けていった。
その様子を眺めながらぼんやりと思う。薄暗い海中トンネルをゆったりと歩くのは親子連れよりもカップルが多いみたいだ。
――芹那と二人で会うことが決まって、じゃあどこに行きたいのかと。話題はもちろんそこに移ったわけだ。
希望を聞くと、メールではなくすぐに電話がかかってきて。迷う様子もなく『最近できた水族館に行きたい』と、やけにきっぱり希望を伝えられた。
『いいよ、お前が行きたいとこならどこでも』と、心にもないことを答えて。
電話の向こうにいる芹那には決して見えない位置で甘い声を出して答えた。
もちろん表情は伴ってなどいなかったけれど。
「わ~、綺麗だし可愛いね、坪井くん」
グイグイと服を引っ張られ、坪井は我にかえる。
「そうだね」
腕に絡みつくように寄り添って、悠々と泳ぐイルカを見つめる芹那の横顔を見下ろした。
答え方にちょっと愛想がなかっただろうかと、言葉を付け加える。
「や~、遠足以来かも、俺。水族館なんて」
言いつつ思い返せば水族館どころの話ではない。
健全な付き合いなどしたことがないし、デートなんてするにしても、買い物に付き合って食事して、そのまま夜……。なんてお決まりのコースしか経験してこなかったものだから、場数のなさに肩を落としたくなる。
(あいつは、こーゆうデートがしたいのかな)
クリスマスの後はすぐに年末年始。仕事始めはもちろん忙しく、まだまともに二人で出かけたことなどない。
坪井は脳裏に真衣香の姿を思い浮かべていた。
「そうなんだ? でも、私も久しぶりだよ」
しかし隣から聞こえてきた声は、もちろん真衣香のものではない。
無意識に気を落としてしまっていた坪井の耳に芹那の声が真衣香の存在をかき消すように聞こえてきた。
「実はねぇ、決めてたんだよね! 坪井くんともしまた会えたら水族館に行きたいって」
「……そうなんだ?」
坪井を見上げながら、芹那は眉を下げて呆れたように笑った。