いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました


「中学の頃さ、地元の水族館流行ってたでしょ? だからチケット勝手に用意して……ああ、付き合う前にね。これで坪井くんのこと誘おうって意気込んだりしてね」
「え、マジで? 初耳」
「マジマジ。その次は普通に買い物とかして、映画とか行って〜とか! これでも色々計画練ってたりしたんだよ~」

 楽しそうな声は、刺さるものがある。

 初恋の女。
 初めての彼女。
 そして、何一つ思い出を残せなかった相手。

 その言葉の裏を自然と読み取ろうとしてしまう。
 
「残念ながら、どれも叶わなかったけどね」
「だね、その前に別れたし」

 ゆらゆらと水槽の中。水の動きを眺めながら訪れた気まずい沈黙を凌いでいると。

「ま、こんな話は後でいいや! もうふれあいコーナーの時間きちゃうよ!」
「え? なに、ふれあい?」
「午後からだと凄く混むんだって! 並ぼ、ヒトデとか触れるんだって」
「……さ、触りたい? それ」

 ぐいぐいと手を引く芹那が振り向いていたずらに笑った。「あ、怖いんでしょ~」と。

 彼女にそう言われると、自然と鼓動が早くなる。深読みなどする必要がないだろう場面でも。
 ずっと怖かったことを見透かされているような気になるからだろうか?


 ***

 
 芹那が動くまま、それについて回る坪井は笑顔を貼り付けながら冷静に彼女を眺めていた。
 
 固いゴムのような感触のヒトデに嫌々触れて、情けない声を出したところを笑われたり。
 小さな魚がいるプールに足を入れたり。
 かと思えば、ラッコの餌やりに並びに行かなきゃと、また手を引かれ。

(……楽しむ必要、ないだろーにな)

 芹那がはしゃぐ様子を疑問に思っていると、ようやく疲れてくれたのだろうか。
「遅くなったけど、人減ってきたしお昼食べよっか」
 と、芹那が施設内のレストランを指差す。

 いいよ、と。頷いた坪井の腕に、また芹那がぴったりと寄り添った。
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