いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
芹那は、坪井の手から逃れようと力を込める。しかし坪井はそれを許さない。
「あの時、青木のこと好きだったよ、一番可愛いと思ってた。それは、ほんとなんだ」
「……っ」
昼時を過ぎて人が減ったレストラン内にも、雑音やBGM、施設内の案内放送など。たくさんの音がこの会話を他人の耳からかき消してくれる。
その上、純粋なデートで訪れているカップルも多い。
テーブル越しに手を重ね合っているくらいでは目立たないのは幸いだ。
「でも、余裕がなかった。俺は、俺のことで精一杯で、きっと青木に求めてたのも、助けて欲しいって側だったから」
「……知ってる、別に、同じ学校だったしお母さんのこと」
「はは、だよな。だから俺はあの時期彼女なんて作っちゃダメだったのに、ごめん。俺が欲張ったせいで、お前を傷つけたよ」
どこまでも甘く、そして、後悔に溺れている胸中を目立たせるよう。顔をしかめながら芹那に声を届ける。
黙り込んでいた芹那は、何度か口を動かした後ゆっくりと言葉を返してきた。
「気づいてる? 私、坪井くんのこと忘れられてないの」
「……気づいてるよ」
「じゃあ」と、身を乗り出すように顔を近づけ吐息混じりの声で言って、見上げてくる潤んだ瞳。
「それでも来てくれたのってどうして?」
多分キメ顔なんだろうなって上目遣いで、見つめられる。
「お前のこと、忘れられなかったから」
「ちゃんと言って」
甘い声とは対照的に、引かない強さ。
「来たら実感した。やっぱ可愛いね、お前。全然過去になんて出来てなかった」
「ほんと?」
首をかしげた芹那の髪が、さらりと頬を伝い流れる様子を見つめながら。ゆっくりと口を動かした。
視線を逸らさないまま、囁くように。
「ほんとだよ。気が早いけどさ、今日帰したくないなぁって考えちゃうくらいには可愛いと思ってる」