いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました

 
 坪井の言葉に、芹那は特に戸惑いは見せずニコリと目を細める。その慣れた様子を眺めて坪井は思わず自分を重ねそうになった。
 似通った部分を見つけてしまうのは、同じ頃に歪みを抱えたからだろうか。

「明日休みだよね? 坪井くん」
「うん」
「じゃあここ出てどこかでゆっくり飲んでも大丈夫だね。泊まって、お酒抜けてから帰ろうよ」

 手首を掴む坪井の手に、芹那はそっと自らの指先を滑らせるようにして触れた。
 その仕草は嫌になるほど妖艶だ。
 
「なぁ、その前に一個教えてよ」
「なぁに?」

 坪井の指をひとつひとつ自分の手首から引き剥がし、ゆっくりと唇に押し付ける。その唇はしっとりと柔らかく、男が好む女の感触。昼下がりには似つかわしくない動作だ。

 思わず「ははっ」と、乾いた笑い声を我慢できず零してしまった。
 ここまでだ、と。そのまま乾いた声を出す。

 坪井が何重にも用意してきてるように、芹那だって用意してきている。
 甘いだけのデートが出来るならば、そんなもの何年も前に実現できていたはずだろう。そうではなく〝今更〟なのだから。
〝今更〟会う理由があったから。

「お前の犬共、何時くらいに俺の彼女の家に押しかけるつもり?」
「……え?」
「てか、言いなりになってる俺、結構楽しめた? お前の考えてる通り動けてた?」
「何言ってるの……?」

 甘ったるい声に、張り詰めた音が混じった。芹那の唇に押し当てられた自分の指先で、その隙間をこじ開けようと力を入れる。

「い、痛いってば……っ、なんで」
「なんでって、な。女の身体で動く男は大体金でも動くよ」
「……か、金って」
「どうなの? 俺はこの後ホテルにでも連れ込んでれば満点だったわけ? その辺だけは謎なんだよね、まだ」

 坪井の手を払い除けた芹那が、唇を拭う動作を見せながら坪井を睨みつける。
 とても悔しそうに、とても憎しみに満ちた表情で。
 その表情こそ、笑顔の下に隠していた本心なのだとしたら、ようやく青木芹那と再開できたと言えるのではないだろうか?

「てゆーかさ、そもそも顔もうろ覚えだった女相手に未練あるわけないじゃん」
「え?」
「何ならあの時期いいことなかったし、お前に対してもいい思い出もないからさ。未練よりトラウマ。お前も一緒だろ?」
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