いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました


 不機嫌な声で坪井の言葉を遮る。
 
「そっか、残念」なんて。
 全く残念そうな声を出さずに言ったなら、呆れた様子で大げさに息を吐かれた。
 そして、共に座るベンチのギリギリ端まで移動して微妙な距離を確保し出す。
 芹那の、その顔にはわかりやすく“近寄りたくない”オーラが浮かんでいた。

「昔を思い出す時とか、思わぬ変化を誰かのせいにしたくなる時とか……どうなんだろ、どーゆー時?」

「聞かれても」と、苛立った声とともに芹那は顔のラインに沿って綺麗に伸ばされている長い前髪を掻き上げた。
 
「はぁ、坪井くん、繰り返すけど。ほんっと面倒な男になったのね。中学の頃もうちょい可愛かった気がする」
「マジで? ありがと」

 取って付けたように綺麗な笑顔で礼を言えば「褒めてないから」と刺々しい声は言った。
 
「それだけ調べてきてるなら、どうせ知ってるんでしょ」
「ああ、うん、まあね。結婚する予定の相手に浮気バレたんだよね?」

 隼人を板挟みに調べてきたのだから、もちろん図星なのだろう。そうでないと困る。
 再び黙り込んだ芹那。彼女はどうやら素直に頷きたくない時は黙り込むらしい。

「男に、青木のそーゆーことがバレるの初めてじゃないんだろ?」

 ややテンポが遅れて、開き直った声が聞こえる。

「まぁ、そりゃ……毎回バレて別れてきたわけだし」
「じゃあ何で今回に限って、バレた後こんな行動的になったの? わざわざ俺のことなんて思い出してさ」

 早口に捲し立てて、小さく震えた芹那の口元をじっと見た。返すべき言葉に迷ってる証拠だ。
 嘘を探す隙を与えたくない。坪井は、彼女が反応を返してくるのを待たずに言葉を続けた。

「焦ってんでしょ? 俺に仕返しして、そっちで満たされてなきゃ身動き取れないほど」
「うるさいなぁ」
「好きなんだ? 相手のこと」
「だからうるさいってば!」

 掴んでいない方の芹那の手のひらが大きく空へ振り上げられて、勢いよく坪井の頬まで振り落とされる。

「ってぇ……」

 ベチっと、そこそこに痛いけれど気持ちよくは響かなかった鈍い音。

「はは、思ったより痛いね。今までの女の中で青木のが一番痛いよ多分」

 肩で息をする芹那の顔は怒りのせいなのか赤くなっていて、感情的な表情はとても人間らしかった。

「つ、坪井くん、ずっと女関係適当だったじゃん! 典型的な来る者拒まず去る者追わずじゃん!」
「やっぱ智里から俺のこと聞いてたんだ?」
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