いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
「私は、そうだね。事情を知ってても、自分を優先させててごめん。お母さんのことほんとはずっと気になってたのに、自分のクラスでの立ち位置ばっかり考えてた」
気まずそうに視線を落として、それからゆっくりと戻して。
声は続く。
「自分のそんなとこが大嫌いで、嫌いなまま今になったけど。でも好きだったよ、坪井くんのこと」
「うん、俺も。青木のこと好きだったよ、ちゃんと」
引っかかりもなく互いに言えてしまうのは、一緒に歩いてくれる人がいるからだと思いたい。
「私ね~、学校中の女の子たちの視線集めてる坪井くんの彼女になれて実はすっごいはしゃいでたの。目つけられてもしょーがないや」
今思うと、うざいよね!と付け加えて。はは、と気恥ずかしいのを隠すような笑い声。
「でも私、もっとわかりやすく優しい人がいいから。だから別れてって、あの時ちゃんと言ってればもうちょっと楽だったのかな。心残り少なくて」
言いながら次は、意地悪に笑う。
大げさなくらいに動く表情。
そうだ。彼女はこんなふうに感情を隠さないたくさんの表情を持った人だった。
話すたびに溢れてくる、隅に追いやっていた記憶。
「じゃあ初めての彼女には俺が至らなくてフラれたってことで、カウントしといていい?」
「……いいよ」
短く応えて。そして、ニヤリと何やら急に楽しそうに笑顔を作った芹那。
「あと、ね〜。これは仕返し。今日はやられっぱなしだしだから」
耳元でねっとりと囁く声。
「え」
掴んでいた手首を払いのけられたかと思ったら、妖艶な動作で両腕を首に回され、引き寄せられた。
ムスクの香りがまとわりついて気を取られていると。
「……ん?」
軽く触れあった唇。
呆然としている数秒の間に角度を変えてもう一度。
最後の仕上げとばかりにペロリと唇を舐められた。
「……え、やめてよ。ほっぺにチューとはレベル違うくない? さすがに」
キスなんてとっくに特別ではなくなっていたし、浮気にもならないレベルの触れ合いだと実は思っていた。
もちろん、真衣香を好きだと気がつくまでの話だが。
「だよね~」
と、今日一番の笑顔で相槌が返ってくる。