いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
何かを間違えてしまったというならば考えて思いつくシーンなんて、今の真衣香にはひとつしかなかった。
優里と坪井と、そして真衣香。
三人で会った、あの夜。
ファミレスの帰り道。
“どうしたの?”と、聞かれた真衣香は、確かに本音を飲み込んでしまった。
信じるという、あやふやな繋がりを、相手に依存させたせいだ。
(“運命”みたいで、怖かった……二人の再会から逃げたから)
今更気がついて追いかけてきたところで、ダメなんだ。
再会してしまったら、思い出すに決まってる。嫌いになったんじゃなくて置かれた状況のせいで離れてしまった二人なんだから。
大好きだったこと、思い出してしまう。
あの頃伝えきれなかった不器用な気持ちを、伝え合ったのかもしれない。
(わかってたくせに、逃げたからこうなったんだよ)
坪井と芹那の触れ合う唇。ハッキリと見えたわけではないのに。なぜか頭の中では今も二人の唇は重なり合っているのだ。
「……ご、ごめん」
「さっきから謝ってばっかりだね、坪井くん」
睨みつけようと目に力を込めたけど、多分そんな表情は作れていない。かわりに涙ばかりが溢れて止まってくれない。
「ちゃんと何に謝ってるか言ってくれなきゃ、わからないよ」
「あ……! いや」
焦ったように言葉を探して選んでいる様子に、後悔ばかりが募った。
「私って、あれだ……。ここで引き下がったらいい感じの当て馬になるのかなぁ?」
真衣香が、まるで自分を嘲笑うように呟くと、坪井は「え?」と。
何を言っているのかわからないといった様子で真衣香を覗き込む。
「どうゆうこと?」
「芹那ちゃんとまた会えるように、私と付き合うことになったのかな、坪井くって」
「は? ちょっと待って。いきなり何……」
「映画とかドラマだと、二人のこときっとね。運命の再会って表現しちゃうんだよ」
坪井の声を遮って真衣香から出た声は、自分のものとは思えないほどに低く、感情のこもっていない声だった。
だって、こんな言葉に感情を込めてしまったら、どんな顔をしていればいいのかわからないじゃないか。
「待って、違うって! 今日はちゃんと青木とのこと終わらせるつもりで来て」
「じゃあ、どうして何も言ってくれなかったの? 隼人くんからここに来るまでの間に聞いたの。芹那ちゃんが私にしようとしてたこと」
「あいつ……」と、苦虫をかみつぶしたように呟く。
それから声のトーンを柔らかく変化させ真衣香に言った。
「お前に余計なこと伝えて怖がらせたくなかった、ごめん」
余計なこと。そう、表現した坪井に対して例えようのない怒りが湧いた。
カッと燃え上がるように、目の奥が熱くなる。