いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
「2人の間にある、ものが、私と坪井くんにはない気がして怖かったの。だから信じてるって言い訳にして何も見ないふりしてたの。そんなの芹那ちゃんに取られて当たり前だよ」
顔を埋めたまま泣き出す真衣香の頭を、遠慮がちに撫でる優しい手。
「あの日ね、優里と坪井くんと三人で会った日」
「うん」
「優里のこと考える余裕がなかったって、私が言ったら……坪井くん、どうして? って聞いたよね?」
「……うん、聞いた」
真衣香の頭に、坪井の唇の感触がする。
それを、こんなにも切なく感じてしまう前にどうして強くなれなかったんだろう。
「優里を、すぐに許せなかったの……坪井くん私から取らないでよって、初めて、優里のこと許せなかった」
真衣香が嗚咽交じりに繋げる声を、坪井は黙って聞いてくれている。
ああ、芹那ちゃんのことはいいのかな? そんなふうに考えるのに身体は動かない。
恋をしてどこまでも汚く、そして狡くなる自分も、もっと早く見せていれば。
あのキスは、なかったんだろうか。
「今も芹那ちゃんにあげないって、もしそれで芹那ちゃんのことも坪井くんのことも……傷つけちゃっても。それでも坪井くんのこと絶対あげないって邪魔しにきたの。酷いよね」
身動きも取らずに聞き入ってくれていた身体がピクリと大きく反応した。
それに気がつき、真衣香の中に渦巻く恐怖もピークを迎える。
いつだって、目の前の人が望む自分でいなければと顔色ばかり伺ってきた。それを、敢えて見ようとせず我を通すこと。
「い、嫌な奴だよ、ね。坪井くんは子供みたいな私が物珍しくて可愛く見えてただけなのかもしれない……けど」
それが、こんなに怖いことだなんて。
怯んだ口元が続きの言葉を飲み込もうとする。
抗うように力を込めて、密着する身体を力いっぱい引き離した。
距離が出来た二人の隙間に冷たい風が吹き込んでくる。
冷たい、怖い、嫌われたくない。
(でもだめ、飲み込まない、言う、言うの!)
真衣香は唇を噛んだ後、大きく息を吸って、胸につかえていた言葉を吐き出した。