いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました

 
 緊張からか少し汗ばむ真衣香の手を握って、やはり歯切れの悪い坪井の言葉。

「そ。真衣香ちゃんの言うように、こんなの悪循環だったね」

 芹那は坪井から真衣香を奪うようにして手を引き、その頬の涙を拭った。

「幸せそうなカップル壊すの大好きだったの、私」

 奮い立たせるような声と、無理やりな笑顔で言った。

「え?」

 そんな芹那の発言に、真衣香は返す言葉を失う。
 真衣香の頭では理解まだ理解できない感情が世の中には渦巻いているようで。
 
「それもこれも全部坪井くんのせいで捻くれ曲がったんだって思ってたけど、違うよね。例外があったから……自分自身がおかしいんだって気づいて怖かった」

「例外?」と尋ねた真衣香にこくりと頷く。

「もう澤村くんに聞いたかな。智里って澤村くんの元カノ、私の友達」
「き、聞いたよ」

 恐る恐る相槌を打つと、芹那は困ったように眉をハの字に下げる。
 こんな力ない表情を見せる人なのか、と失礼にも見入ってしまった。
 
「うん。二人のこと壊そうと思ったことがなかった。それどころか絶対に別れたりしない……どこか理想みたいにしてたとこがあってね」

 ぽつり、ぽつりと芹那の声は小さく真衣香の耳に届く。すごく寂しそうで、痛々しい声だ。嫌いだと言った自分の言葉を責めたくなる勢いで。

「別れたって聞いたときほんとにショックで、この二人でダメなら……私なんかもっと無理じゃんって」
「無理?」
「はじめて、裏切りたくないって優しい気持ちになれた相手だったの、今の相手が。でも、ずっと平穏な気でいた自分の心の中がざわついていくのすぐにわかったんだよ」

 芹那は苦しそうに、そして悔しそうに自分の胸元に手をやって、息を吐いた。

「誤魔化すように、また、他の男に擦り寄って、応えてもらって快感と安心を得て……でも彼にバレて逃げ出した」
「……うん」
「ちょうどその頃、優里から坪井くんと真衣香ちゃんのこと聞かされて……なんで、坪井くんは私をこんな男に依存してないと立ってられない女にしておいて自分だけはちゃっかり……とか、はは、言っててヤバいね逆恨みもいいとこだわ」

 乾いた笑い声と一緒に、芹那は髪を掻き上げながら目を潤ませる。
 自分の胸に置いていた手で、再び真衣香に触れた。コートを引っ張るようにして、ぽつりと零す。

「私、今更、何て言って謝ればいいのか、わかんないよ。選べって言っても」
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