いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました

 
 真衣香は、ずっと前のようで、でもまだほんの少し前の出来事。
 給湯室で、壁に押しつけられたときのこと思い出す。坪井に、とても乱暴に触れられた時のことだ。
 
「……うーん。坪井くんも、確かに訳がわからない時があったんだけど……そうだな」
「真衣香ちゃんやっぱり優しいようで時々グサッと言うよね……意外だわ」

 感心したように突っ込む芹那に、真衣香は「そうかな?」と驚いたように笑って。

「お前のこと大好きだって、うん、結構今思えばストレートに言ってくれたよ」

 ゲホゲホと真衣香のすぐ背後で坪井が咳き込んだ。
 振り返ると恥ずかしそうに、目をそらす。

「え、それって、真衣香ちゃんを家に連れ込んでおいてコートも着せずに追い返したっていう、例の出来事の後の話?」

 優里は、どうやらかなり詳しく芹那に話していたらしい。

「そうだよ」と答えると、呆れを通り越して、またもや感心したように。

「ヤバいね、坪井くんって」

 芹那は改めて言い切った。
 もはや睨み合っているのか、それとも見つめ合っているのかわからない二人の視線が絡まる間に割って入る。
 
「あ、あの、それで結局芹那ちゃんは、誰に謝って、色々と、その……伝えたいんだろ……」

 真衣香はズキズキと痛む胸を誤魔化すように聞いた。

「坪井くん」

 シレっと言い切った声に、真衣香は息をのむ。しかしその後すぐにククっと喉で笑った芹那。

「なんて、言ったら私にくれるの? 坪井くんのこと」
「え!? あ、あげたくない!!」

 慌てて叫んだ真衣香を見て、芹那は目を細めて笑い声を上げた。
 その明るく晴れやかな表情は優里とそっくりで、どうしようもなく声を聞きたくなったのだ。
 突き放してしまった親友と、話したくなってしまった。




 ***


 今度改めてお詫びさせてね、と。
 帰ろうと坪井の車に乗り込んだ真衣香に芹那は言った。
 芹那の恋人の到着まで隼人が一緒に待つというので、それに従う形になったのだけれど。

(隼人くんに悪いなって思ったけど、そっか。智里さんのこととか色々積もる話もあるのかもしれないな……)

 自分を納得させつつ。

「お詫びなんて、いらないのにな」

 車が走り出したあと、ぼそっと呟いた真衣香の声を聞き逃していなかった坪井が答える。

「いや、いるでしょ」
「どうかな、私は坪井くんからのお詫びの方が欲しいかな」
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