いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
しかし、安心したのも束の間。
山本が退職してしまってから新たな問題が起きた。
いや、すでに最初から起こっていたことなのだろうが。
会話が続かないのだ。
山本がいた頃は、それなりに彼女が緩衝材となり円滑に総務課を回した。
だが、それがどうだ。
八木が一言注意するだけでもビクビクと視線が泳ぐ。
面倒すぎるな、このクソガキが。と、心の内で何度キレたことか。
ある日。気を遣って話すことに嫌気がさした八木は、当たり前のように目を合わせない真衣香の鼻を摘んだ。
『い、いひゃい!』と、叫び、涙目で見上げてきた黒目がちな瞳に何かを思い出す。
『あー、マメだな! 何だ、お前。 うちの実家の犬にそっくりだな』
『え!?』
その時初めてガッチリと目が合ったことを、今もハッキリと覚えている。
『豆柴なんだけどな、目がまんまだぞ、お前ほんとに人間か?』
からかい口調で言ったなら頬を膨らませて反論してきた。
『わ、私人間ですよ! 犬じゃありません!!』
(何だ、こいつ腹から声出せるんじゃねぇか)
――なるほど。こうすればビビらずに会話できるわけか。
そんなふうに、ひとつ扱い方を把握した。
ひとまず安堵した八木の背後で笑い声が上がる。
杉田だ。
『いやぁ、楽しそうでいいねぇ。 うちの娘は最近口も聞いてくれないからね、立花さんの声を聞いてると元気になるなぁ』なんて平和なことをぬかし始めたのだ。