いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
「今日はありがとな」
「ううん、こちらこそありがとう。楽しかった」
坪井とは電車の方向は別々なので、改札入ってすぐに坪井が言った。
(あっという間だったなぁ)
余計な話をしてしまったせいで、楽しいばかりの空気を多少壊してしまった感はあるが。
単純に真衣香は楽しかった。
一緒に過ごす時間はあっという間に過ぎる。
感じるドキドキは心地よく、帰ることが惜しくなってしまうくらいに。
(優里以外の人といて疲れないなんて、初めてかも)
思い返して口元が笑みを作りそうになるから、慌てて引き締めた。
すると、坪井が言った。
「お前って不思議だね」
「……え? 不思議?」
「うん。腑抜ける感じ。ちょっとビビってるんだけど」
その言葉を聞いて、真衣香の耳から駅を行き交う人たちの話し声や物音が消えた。
やはり余計な話を調子に乗ってし過ぎてしまったのだ。
『お前と話してるの疲れるから、付き合うって言うのなしにしない?』
なんてマイナス思考の塊的な声が脳内に響いてかき消す。
大丈夫、今の声はまだ真衣香の妄想だ。
「あ、誤解すんなよ? お前って中毒性あるかもよって話。 少なくとも俺にはね」
「え、ど……毒!?」
これはどう反応すべきかと瞬きを何度か繰り返していると、いつの間にか目の前の坪井が微笑んでいて。
何かを溜め込むように深くゆっくりと深呼吸をした後に言った。
「出張終わったらお前にすぐ連絡するね」
「あ、ありがとう! 嬉しい。待ってるね」
「うん。後、さっきも言ったけど何かあったら連絡して。近くにいなくてもできることあると思うから」
「……? うん? ありがとう」