いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
力んで距離を取ろうとするが動けない。
改札を通って、エスカレーター脇の柱に隠れるように立っていたとはいえ人目に全くつかないわけではないのに。
真衣香だけが、ドキドキとうろたえている。
平然としていられる坪井は、やはり、こういう触れ合いを何度も経験してきたのだろう。
顔も知らない名前さえ知らない。
勝手にそんな過去の相手を想像して、ズキン、と胸が痛んだ。
でも。
「子供じゃなくて、俺の彼女でしょ? 早く慣れて。俺ひっつきたいと思ったら我慢できないし、いっぱい触りたいし」
そんな言葉で、痛みよりも甘さが勝る。
単純すぎて嫌になった。
これこそまさに経験の浅い真衣香が、舞い上がっているだけの光景の様な気がして。
「……う、うん」
喉を通り抜けて、その不安が音になってしまったような情けない声で返事をしたのだが。
「期待してるね。 あと、帰ったら連絡してね。 お前の方が家遠いし、心配だから」
「…………はい」
(誰かの彼女だと、か、帰り道なんて心配されるの!? どうしよう嬉しい……)
優しく包み込まれる様な声。
別世界だと思ってた、たったひとりの大切な人に向けられる男の人たちの〝彼女扱い〟を。
なんだか、今まさに受けている様な気になってしまったから。
魔法みたいに不安が消えてしまう。
そんな感覚を、感じていた。