いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました



「私ね、坪井くんと比べたら本当に何もわかってないと思うの。恋人同士の男女ってどんな距離にいるのか、どんなふうに一緒にいるのか」

「どんなふうにって?」

坪井の、掠れた声が返ってくる。
真衣香はコクリと僅かに首を動かし小さく頷いた。

「坪井くんが全部教えてね、坪井くんにとって恥ずかしくない……ちゃんとした彼女になっていけたらいいなって思ったから」

〝いつか胸を張って隣を歩けるように〟では、ダメなんだ。
〝いつか〟を少しでも早く。そんな努力を。

それはきっと、相手を煩わせない道に繋がる。

「は、はは……、お前ね、ダメじゃん。 そんな言い方したら男ってすぐ調子のるし」

なんとなく弱々しい声がして、坪井が真衣香の頰から手を離した。 
自然と重ねていた真衣香の手は行き場を失って宙を舞い、落ちる。
それと同時、身体が離れて行こうとした。

(あ、嫌だ)

その、目の前の光景をどうしようもなく名残惜しく感じてしまい、真衣香は咄嗟にスーツの裾を軽く引く。

「大好き、坪井くん」
「――え?」

立ち上がりかけた坪井が、数度瞬いて真衣香を見下ろす。

「って、うお!?」

数秒無言で互いを眺め合い、真衣香が自分の発した言葉を理解するよりも前に。

坪井の驚いたような大きな声と椅子が倒れた音がフロアに響いた。

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