いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました



(坪井くんとは別の意味で人の心に入り込んでくる人だよね)

頭の中に、ぽやん、と坪井を思い浮かべたところで八木が言った。

「営業部となんかあったろ、課長ボヤいてたし高柳さんのこと」

「ちょっと頼まれてた仕事ミスして……私が。でも一応解決しました」

真衣香がその問いに目を泳がせながら答えると。
八木は、へぇ……と声を出しながらパソコンを触っていた手を止め、腕を組んで愉快そうに真衣香を見て目を細めた。

そして、自分のデスクに置いてあった段ボールを片手で持ち上げ真衣香を手招く。

招かれるまま近寄っていると、また八木が話し出した。

「ま、解決したんならいーけどよ。これ頼まれてくれるか? 誰かさんが珍しく朝イチいねぇから仕事進んでないんだよな」

口角を嫌に上げニヤッと笑った八木が、相変わらずネクタイで締められていない首元から鎖骨を覗かせ真衣香に段ボール箱を渡した。

(いつも朝イチいないのは八木さんなんだけど……)

そう思っても、もちろん口にはできず。
ズン……っと、大きさの割に重さのある手元を見た。

「営業部2課、社員証ケース……ですか」

段ボールに貼り付けられた用紙の文字を読み上げる。

「そ、持って行ってこい」と、八木が真衣香の目を見て言う。

「あ、そっか。先週大量に注文書きてましたよね営業部から」

「繁忙期入ったからな。短期の派遣がどっと来たろ、昼からも制服届くけどまずそれ急いでくれって言われてただろが。行って来い」

「わかりました!」

普段怠けているようで、でも指示の出し方や自信の持ち方なんかは真衣香には真似できない。

だからサボってても文句なんて言えないし。 と、心の中で愚痴っていると。

「仕事内容が違うからな、不満なんていくらでも出るんだよ」そう、唐突に八木が言った。

「はい?」

段ボールを抱えながらフロアを出ようとした真衣香は何の話かと聞き返す。

「自分のやること全部、先回って終わらせるくらいでいろ。いいか? 言わせねぇようにすんだよ、お前は正確だけどトロイからな。突っ込まれやすい」

振り返った真衣香とは目も合わせずに八木は言った。

恐らく今回のことの助言だろう。
しかしそれ以上はなにも言わないし、パソコンからも目を離そうとはしない。

そうなると、これ以上の言葉を引き出すのは難しい人だ。
真衣香は「ありがとうございます」と小さく伝えた後、そのまま続けて「じゃあ行ってきますね」と軽く頭を下げ総務課を後にしたのだった。
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