愛を、乞う
お母さんが得意げに言っていたのは、風邪をひいて休んでしまっても常連さんはすぐに気付いたらしい。
翌日には栄養ドリンクを持ってきてくれたと話していたっけ。
お母さんと顔が似ているから、店に買い物に行けば知らない人から宮沢さんの娘さん?なんて聞かれたりもした。
それが今は、とてつもなく恥ずかしい。
叔父さんと叔母さんが荷物をまとめ、家を出る頃には既に暗くなっていた。
泣きそうな叔母さんに微笑んでタクシーに乗る2人に手を振ると、叔父さんに渡された茶封筒に入るお金に参ってしまう。
早くバイトを探さなきゃ、2人の為にも私が何とかしなきゃ、学校もちゃんと通ってバイトもして、これから忙しくなる。
空を見上げれば、まん丸の月。
久しぶりの外は1週間前よりもずっと秋らしく、それでもまだ肌に張り付く風は暖かい。
駐車場に背を向けて自分が住む古いマンションを見上げる。
五階建てのコンクリートの塊り、洒落っ気のないマンションは築30年で渡り廊下の明かりは薄暗い。
奈々も麻里奈も気味が悪いとよく言っていた。
住み心地はよく、昔から住んでいる人も最近越してきた人もいて意外にもにもほとんどの部屋が埋まっている。
今日からこの家に1人だと考えると、一軒家じゃなくて良かったと他人の家の明かりを見て思った。