俺様副社長に娶られました
日本酒はお米を原料にしていて、神社のお神酒としても使われる神聖なもの。
信仰深い天川のおじさまにとっては、うちが潰れて北極星を造れなくなることは晴天の霹靂だといっても過言ではないらしい。

株式会社天川はうちの蔵を完全子会社化して、銘柄は全国の酒処天の川で提供しながら販路を拡大し、設備も充実させて日本酒を広く知ってもらう企画を行っていきたい言ってくれたらしい。
従業員の雇用はそのままに、いずれ温度調節できる蔵に改装して冬季だけではなく四季醸造可能な近代的で大きな蔵にしていきましょう、と。

わたしは小さい頃からお米の優しい匂いがする蔵が大好きだったし、醪(もろみ)が発酵するポコポコといった音も、蔵人のおじちゃんたちも優しくて大好きだった。
うちの蔵がなくなってしまって、うちの実家やおじちゃんたちが露頭に迷ってしまうのは悲しい。

天川のおじさまが助けてくれるなら、ものすごく喜ばしいことこの上ないのだけれど……。


「痛っ……」


ズキンと鋭い痛みが走り、わたしはこめかみを押さえた。


「__沙穂?」


お母さんに顔を覗き込まれ、ドキッとした。


「もしかして頭痛いの? まさかあなた昨日、お酒を飲んだんじゃないわよね?」
「へっ⁉」


顔面を蒼白させ、わたしは爪先を靴に引っかけたまま静止する。


「い、いや、それは……」
「二十歳のとき初めてうちの日本酒を飲んで、記憶失くして大変だったこと忘れたわけじゃないわよね?」


……まさか、忘れたことはない。

わたしはお酒が解禁になるその日を、ずっと心待ちにしていた。
だけど、お父さんが手作りしてくれる大好きな甘酒と同じペースで、グイッと一口飲んだところまでしか記憶がない。

目が覚めると、自分のベッドでうずくまっていた。
介抱してくれたお母さんによると、たった一口でぐったりし出したわたしは苦しいともがき、自分で服を脱いだらしい。
しばらくして安らかな寝息が聞こえてくるまで気が気じゃなかったと、お母さんから何度も聞かされている。

もしもそんな出来事がたった一度の話なら、まだアルコールに体が慣れてなかったのかな、とか、その日の体調が思わしくなくて疲れてたんじゃないか、という理由が考えられたかもしれないけれど、わたしはその後も何度かお酒を飲んでは記憶を失くし、激しい頭痛に見舞われるのだった。
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