俺様副社長に娶られました
リビングに入って来た創平さんは、いつものようにジャケットを脱ぎ、ネクタイを外しながらちらりとテーブルを一瞥する。


「ああ、ケースな」


脱ぎかけたジャケットの内ポケットを弄ると、ほれ、とケースをこちらに投げる。


「わわ……!」


焦ってなんとかキャッチ出来たわたしは、両手で抱え込むように大切に持った。


「いつの間に、買ってたのですか?」
「一緒に見に行ったすぐ後。沙穂はほかのものがいいとか、これがいいとか言わないだろうと思って。サイズはいつでも直せるからな」


造作無く言われると、なんでもお見通しって感じでなんだかこぞばゆい。


「創平さんが買ってくださってたなんて思わなかったので、驚きました。ありがとうございます」


言いながら、わたしはダイヤの指輪を大切に、創平さんから受け取ったケースに入れ直す。


「まあ、沙穂に白状することならもっとあるけど」


惚けるような言い方で、創平さんは脱いだジャケットをソファの背もたれにかけた。


「白状? な、なんでしょうか?」
「記憶を失くしたあの夜だけど。なんにもなかったぞ」
「……え?」


あの夜、なんにもなかった……?

って!


「ど、どういうことですか⁉」


取って食ってない、ってことですか⁉

時間差で大声を上げたわたしの目に前で、創平さんはしらっとそっぽを向く。


「君は覚えていないだろうけど、天の川で酔い潰れたとき、隣に居合わせた男性客に、誰とも付き合ったことがないのに顔も知らない男と結婚することを赤裸々に語ってたよ」
「え!」


超個人的なことを見ず知らずの人に喋っちゃうなんて……絡み酒ってやつですか?
全然覚えてないけど……とんだ失態だ!


「酔った沙穂を蔵まで送って行っても良かったんだけど、せっかくのチャンスだし逃したくなかった。顔も知らない男といきなり結婚することになるよりなら、ちょっと免疫つけてやろうかと思い立ってね」


ちょっと免疫、って……。
それ、結婚する本人が素性も明かさずにすること?


「創平さん、お、面白がってますよね?」
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