俺様副社長に娶られました
訝しげに見つめるわたしを、創平さんは不満そうに目を細くする。


「面白がってるわけねえだろ。理性一生分使ったこっちの身にもなれ」


語気を強め、さも不服だと言わんばかりにわたしを見下ろした。


「水飲ませれば零すわ、服は脱ぎ出すわで大変だったんだぞ」
「えっ、ふ、服……」
「しかも、無自覚で煽ってくるし……。節度ありまくりで超不健全な日々を送ってたんだぞ、こっちは」
「あ、煽っ……?」


創平さんの言葉をうまく咀嚼できない。

明かされる真実と本音にただただぽかんと間の抜けた顔をするわたしの頬に、創平さんはおもむろに手を伸ばした。


「初めて蔵で会った頃から、いつかこうなることを望んでた大事な存在なんだ」


創平さんの顔を見上げたまま静止していたわたしは、顔がカッと熱くなり、まるで熱にやられたように目に映る光景が湯だって見えた。


「こんなに可愛く成長してるなんて計算外だった」


いつもの創平さんの、わたしをこっぴどくからかうような雰囲気など皆無。


「そりゃ自制もするわ。大事すぎて、手が出せなかったんだ」
「……っ」


わたしに触れてこないのはわたしに魅力が無いからなのかなとか、ほかに大切な女性がいるのかな、なんて思っていたけれど。
やり場に窮するような創平さんの眼差しを見ていたら、閃光するみたいに胸がときめいた。
心が磨かれてよりはっきりと敏感に、創平さんへの思いが強くなる。


「あの、わたし……」


思いが募り胸がいっぱいで、溢れそうで、ぎゅうぎゅうに締めつけられて、無性に泣けてくる。


「創平さんのことが、好きです……」


いつか伝えたいと思っていたけれど、こんなに早く口に出して言えるとは思ってもいなかった。
立場的に何度も苦しかったし、今だって。創平さんが目の前で、切なげにわたしを見つめ返すだけで胸がきゅんと収縮して苦しい。

お互いに見つめ合う時間がしばらく流れたあと。


「流されるな、こら」


創平さんの唇を割って出た甘さを微塵も感じられない言葉に、わたしはかくんとうなだれる。
すると、わたしの頬を支えて顔を上げるように持ち上げた創平さんの顔が、間近に接近した。

この状況、デジャブなんですが……!

わたしはとっさに鼻を手のひらで覆ってガードする。創平さんの次の動作を予測して、きっと鼻を摘まれると思ったからだ。
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