俺様副社長に娶られました
そうなるともう完全に〝わたし+アルコール=記憶喪失〟という方程式が出来上がってしまって、わたしはお酒を飲まなくなった。


「ま、まさか……」


顔を引つらせるわたしをお母さんは腕を組んで直視する。


「それで、天の川に行ったあとはどうしたの? 夜、どこかに泊まったの?」
「え⁉」


焦りが身体中から湧いてくる。
言い訳を考えなくては、と思いながら足をブンブン振る。靴がなかなか脱げないのだ。

記憶をなくして目が覚めたら真っ裸で、美しい男性とベッドの上でした、なんて。口が裂けても言えない……!

お母さんから訝るような目線が飛んできて、グッと喉に力を込めたときだった。


「沙穂、おはよう」


玄関の正面にある階段から、お姉ちゃんが下りて来た。
ちょうどいいタイミングで、焦りで浮腫んだわたしの足から靴がスポッと抜けた。


「もう、なに子どもみたいな脱ぎ方してるの? ちゃんと揃えきゃダメじゃない」


玄関で屈んだお姉ちゃんは、わたしのローヒールの靴をきちんと並べて揃えた。


「これスイーツバイキングのチケットなんだけど、沙穂、使わない? うちのホテルに行ってみたいって前から話してたじゃない」


微笑んだお姉ちゃんは、ぶらんと垂らしたわたしの手を持ち上げて、手のひらにチケットを持たせた。


「お母さんと行って来たら? 気に入ったらまた紹介するから。じゃあ私、行ってくるね」


首を傾げる上品な笑顔を残し、お姉ちゃんは高いヒールのパンプスをカッコよく履きこなして古びた引き戸から颯爽と出て行った。

美人なお姉ちゃんが通過すると、年季の入った玄関もお洒落な古民家のように見えてこなくもない。


「スイーツバイキング? どれどれ」


スイーツ好きのお母さんが渡されたチケットに釘付けになり、昨夜のことをそれ以上追及されなかったのでわたしは心底ホッとした。


「穂花(ほのか)が働いてるホテル、スイーツもいいけどラウンジも素敵なのよね」


わたしの手からチケットを奪ったお母さんは、なにか考えるように顎に手をあてた。


「ラウンジ?」
「ああ、沙穂は行ったことないんだものね。以前試飲会のイベントがあったときにお母さんは行ったことあるんだけど」
「……」
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