俺様副社長に娶られました
川原酒造と株式会社天川の、親同士の利害関係の一致によるいわゆる政略結婚話は、とんとん拍子で進んだ。
というのも、早いとこうちの酒蔵の事業計画にメスを入れなければ秋からの新酒の仕込みにも影響するとからだ。

創平さんとの顔合わせの日。

お姉ちゃんの手回しでホテルのフィッティングルームをお借りしたわたしは、ヘアメイクも着付けもすべて専属の方にお任せした。
レンタルで選んだのは真っ赤な振袖。ピンクの大きな牡丹が描かれていて、その周りを流れるように桜の花びらが舞っているとても華やかで美しい色彩だ。

お母さんはわたしの準備が整ったのを見計らうとここぞとばかりにスイーツバイキングに行ってしまった。

「創平くんとは全く知らない間柄ではないし、今日は顔合わなんだから緊張しなくてもいいのよ」なんて、まったく。
他人事だと思って。

お母さんが素敵だと言っていたラウンジは、シャインガーデンホテル自慢の庭園が一望できる、とても明るくて品の良い落ち着いた空間だった。

壁一面が大きな窓になっていて、採光は抜群。ロビーと同じくオリエンタルな雰囲気のベージュ系で統一された内装は、陽光に照らされて金に近く光る黄緑色の葉の色がとても鮮やかに映えている。

コーヒーはひとまず相手が来てからということで、わたしはさっきから水ばかり飲んでいるところ。
高級ホテルの杯桁外れな金額のラウンジだけあって、この水、すっごく美味しい。何杯でもいける。

酒蔵の娘は結構お水にうるさい。
日本酒はお米と、主原料の水がとても大切と言われている。清酒は約八十%以上が水なので、水の質がお酒の出来を左右すると言っても過言ではない。
硬水の方が酒造りに適しているけれど、軟水の方がまろやかで甘い仕上がりになるとか。

うちは代々、大地のめぐみが豊富なとある山系から汲み出した名水を使用している。その場所がどこなのかはトップシークレットで、お父さんはわたしにも教えてくれない。

……慎ちゃんは知っているのかな。

わたしはふと思って、テーブルにグラスを置いた。
着付けがきつくて、そろそろ水っ腹が苦しくなってきた頃だった。

いずれ慎ちゃんが杜氏になって、お姉ちゃんが女将さんになるのかしら。
でも、バリバリ働いているお姉ちゃんがここを辞めるなんて、考えられない。
いつか、結婚するつもりなのかなぁ。
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