俺様副社長に娶られました
頼んだ二人分のコーヒーが運ばれてきて、一口飲み込んでも一向に落ち着かない。
それどころか、両目が泳ぎまくってままならない。相手を直視できないし、逸らすたびにこっちを見られてるような気がして居心地が悪すぎる。
この人が、天川のおじさまの一人息子?
あの和やかでお酒好きでお喋り好きなおじさんとは、まるでタイプが違うような……。
「こないだとは、随分印象が違うな」
「へ⁉︎」
テーブルから身を乗り出して、前屈みになってわたしを見た相手は、片目を器用に細めた。
「全身。裸だったもんな」
にっと口元を曲げ、意地悪そうに笑う。
せっかく平常心を保てそうな気がしてきたところだったのに、再び気持ちを掻き乱された。
「あのときは、そ、その……」
「記憶がないんだろ? 結構飲んでたもんな」
「えっ!」
俯き加減だったわたしは、さっと顔を上げる。
すると相手は、今度は眉を下降させて柔和に微笑んだ。
「真っ赤。着物と同じくらい」
わたしは顔を背け、手の甲を頬にあてる。
「あの日、酒処天の川のカウンターに座ったのは覚えてるか?」
わたしは恐る恐る目線を上げて創平さんを見ると、こくりと頷いた。
「はい、そのあたりまでは……。メニューがすごくお洒落で、無花果とクリームチーズのサラダと、海老のレモンジュレ掛けと、鯖のバター焼きを頼んで、烏龍茶を飲んで待っていたところまでは覚えてます。あ、あとたしか、お通しは湯葉だったような」
「食いもんだけはやたら正確に覚えてんな。それで、隣に若い男性客が来て絡まれてたよ。いや、君が絡んでた、の間違いか」
「え⁉︎ わ、わたしが?」
隣に座った人とお酒の話をして、勧められて少しだけ飲んだような記憶がうっすら残ってるんだけど……改竄されてる?
「隣に座った男性客が川原酒造の銘柄を頼んで飲み残してたから、君がすごく怒って代わりに飲んでた。粗末にするなんて許せない、蔵人が丹精込めて造ってるのに、って」
「……それで、ひょいっと許容量超えて、記憶を失くすに至った、と……」
わたしは亀みたいに首をすくめた。
わたしなら十分やりかねない、有り得る話だと思ったからだ。
「たまたま俺が新店舗の下見で顔を出していて、居合わせたから良かったけど、」
呆れたような溜め息交じりで、創平さんは続ける。
それどころか、両目が泳ぎまくってままならない。相手を直視できないし、逸らすたびにこっちを見られてるような気がして居心地が悪すぎる。
この人が、天川のおじさまの一人息子?
あの和やかでお酒好きでお喋り好きなおじさんとは、まるでタイプが違うような……。
「こないだとは、随分印象が違うな」
「へ⁉︎」
テーブルから身を乗り出して、前屈みになってわたしを見た相手は、片目を器用に細めた。
「全身。裸だったもんな」
にっと口元を曲げ、意地悪そうに笑う。
せっかく平常心を保てそうな気がしてきたところだったのに、再び気持ちを掻き乱された。
「あのときは、そ、その……」
「記憶がないんだろ? 結構飲んでたもんな」
「えっ!」
俯き加減だったわたしは、さっと顔を上げる。
すると相手は、今度は眉を下降させて柔和に微笑んだ。
「真っ赤。着物と同じくらい」
わたしは顔を背け、手の甲を頬にあてる。
「あの日、酒処天の川のカウンターに座ったのは覚えてるか?」
わたしは恐る恐る目線を上げて創平さんを見ると、こくりと頷いた。
「はい、そのあたりまでは……。メニューがすごくお洒落で、無花果とクリームチーズのサラダと、海老のレモンジュレ掛けと、鯖のバター焼きを頼んで、烏龍茶を飲んで待っていたところまでは覚えてます。あ、あとたしか、お通しは湯葉だったような」
「食いもんだけはやたら正確に覚えてんな。それで、隣に若い男性客が来て絡まれてたよ。いや、君が絡んでた、の間違いか」
「え⁉︎ わ、わたしが?」
隣に座った人とお酒の話をして、勧められて少しだけ飲んだような記憶がうっすら残ってるんだけど……改竄されてる?
「隣に座った男性客が川原酒造の銘柄を頼んで飲み残してたから、君がすごく怒って代わりに飲んでた。粗末にするなんて許せない、蔵人が丹精込めて造ってるのに、って」
「……それで、ひょいっと許容量超えて、記憶を失くすに至った、と……」
わたしは亀みたいに首をすくめた。
わたしなら十分やりかねない、有り得る話だと思ったからだ。
「たまたま俺が新店舗の下見で顔を出していて、居合わせたから良かったけど、」
呆れたような溜め息交じりで、創平さんは続ける。