俺様副社長に娶られました
「あのまま放っておいたら、ほかの男に簡単に持ち帰られるところだった」


低い声で語気を強めた創平さんは、真顔でわたしを見つめた。


「まあ俺もほかの男のこと、とやかく言えないが」


ふっと鼻で笑い、片眉を釣り上げる。


「警告しとくが、自分の許容量もわからない子どもが飲めない量の酒なんて煽るんじゃない」


創平さんをキョトンと見返していたわたしは、ハッとして身を乗り出す。


「こ、子どもじゃないです、二十五ですから」


わたしの年齢、知らなかったってことはないよね?
結婚する気あるのかしら……?

肩透かしを食らった気分を入れ替えて、わたしは強気で言う。


「大人です!」


毅然と胸を張ったわたしに、両腕を組んだ創平さんは一瞬ムッと口を真一文字に結んだ。


「大人が酒で失敗すんな。酒蔵の娘が下戸とはな」
「げ、下戸っていうか、ただ少し、いやかなり弱いって言うか……」
「同じことだろ。こないだはしおらしかったのに、随分威勢が良いんだな」


し、しおらしい?

思い出せない部分のわたしはどんな風だったのだろう。
自分の知らない一面を覗かれてる気がしてすごく恥ずかしくて、わたしは眉根を寄せる。


「……そ、創平さんも、こないだの朝はもっと、違ったような気がしますっ」


膝で両手を握り締め、声を振り絞る。

創平さんだってあのとき、蜂蜜みたいな甘えた声でまとわりついてきて、背中に感じる息遣いとか、すがめる目の奥の色気だとか、ただならぬものだったような気がするんですが。


「どんなこと思い出したんだ? 耳まで赤くなってる」
「……っ!」


自爆したわたしを、創平さんはクッとからかうように笑った。

テーブルに頬杖をついて、項垂れるわたしを愉快そうに眺めている。
その余裕っぷりに、わたしはようやくとある事実に気付いた。

最初からこうなることを見越してたの? って。


「……創平さんは、最初からわたしのこと知ってたんですか?」


というわたしの質問に、創平さんがパッと目を見開いたとほぼ同時だった。
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