俺様副社長に娶られました
「桜か。着物が映えるな」


花と、わたしの姿を交互に一瞥する。


「注目浴びてるぞ」


クイッと首を曲げ、わたしたちと同じように庭園を散歩している女子の集団に目配せする。


「えっ……」


若い女子たちは、たしかに口元を手で押さえてなにやら耳打ちし合いながらこちらを見ているようだけれど、みんなわたしの和服姿じゃなくてこの桜を見てるに決まってる。

というか、振袖姿でお見合いしてる人が珍しいのかな? と思いながらキョロキョロしていると、ガラス張りの向こうでお姉ちゃんがお客様をご案内している姿が目に入った。

わたしに気づいたお姉ちゃんは、ニコッと目で合図する。
すると、創平さんもわたしの目線をたどってお姉ちゃんの方を見た。

外国人のお客様に堂々と対応している姿はすごくカッコよくて憧れる、けれど。

身内のわたしだってそう思うんだもの。本心では創平さんだって、結婚するならわたしなんかより、お姉ちゃんの方が良かったと思ってるんじゃないかしら。

いくら着飾っても子ども扱いされる七五三みたいな外見のわたしよりも、綺麗で仕事も出来るお姉ちゃんみたいな女性の方が、創平さんには合ってるんじゃ……。

わたしはお姉ちゃんになれないのだから悩んでも仕方がないことだけれど、考えずにはいられない。
エレベーターで客室に昇っていったお姉ちゃんの姿が見えなくなって、胸の奥に鈍い痛みを覚えたとき。


「いつにする? 婚姻届」


さくっとした調子で言って、創平さんは自然と強張っていたわたしの顔を覗き込んだ。


「へ⁉︎」
「早い方がいいだろ。苗字が変われば手続きもいろいろあるし」
「……」


非常にあっさりしている。
でも、こんなものよね、親同士の都合による政略結婚だし。

とドライに思って、自嘲気味に笑ったとき、さっきこちらを見ていた散歩中の女子たちが足を止めるわたしたちの真横を通過した。

目線があからさまに一点に集中している。彼女たちは振り返ってもなお、創平さんを見ていた。
なんだ、見てたのはわたしでも桜でもなく、創平さんだったんだ。

人目を引く容姿であることは間違いないもんね。そのくらい素敵ってことか……。
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