俺様副社長に娶られました
昼下がりの木漏れ日がキラキラと黒髪に光沢を与え、黒いスーツ姿をスタイル良く着こなした創平さんはまるで王子様みたいだった。

そう意識すると、眩しすぎて直視できなくて、わたしは目線を斜め下に下降させる。


「あの、変な質問ですけど。本当にいいのですか?」
「いいって、なにが」
「わたしと結婚しても、です……」


思いの外思い詰めた声になった。
ラウンジを出るときに創平さんが言ったように、日が翳って少し肌寒くなってきた。

目の前に大きな影が出来て、わたしは足元から順番に目線を上げる。
すると手が届く距離で創平さんが、揺るがない強い目線をわたしに向けていた。


「親父は川原酒造の北極星を縁起物だと言って大切にしている。正直そこまでこだわって執着する気持ちは俺には理解できないが、まず輸出の際の品質の劣化を防ぐために脱酸素の装置を導入し、海外進出も視野に販路を拡大しブランド化していきたいと思っている。昨今の日本酒ブームから考えても今後の見通しは明るいだろうと思っているから、俺たちに再建を任せてくれるのであれば川原酒造の立て直しとさらなる発展を約束する」
「……はあ」


ビジネスの話となれば随分雄弁だ。

ネット情報通りの強引で冷徹な副社長、とまではいかないけれど、まずまずな仕事一辺倒っぷりではあるかも。

だけど、うちの蔵を立て直すためにここまで考えてくれてるなんて、胸にグッとくるものがある。感動してしまった。

一通り、川原酒造の事業計画を聞き終えた頃、最後に創平さんは「それに、」と付け足した。

じゃり、と一歩こちら側に踏み込んだ創平さんと、ただ直立しているわたしとの距離が近づく。
心ばかり屈む体勢になった創平さんが、わたしの耳元で囁いた。


「抱き心地も良かったし」


耳元でふんわりと甘い、花の香りを宿した風が吹いたように錯覚する。


「その着物、似合ってる。見違えた」
「!」


ドキン! と胸が強く鳴った。
本当に撃ち抜かれたかのような、雷みたいな衝撃だった。
その一発を皮切りに、心拍数がどんどん上がる。

だって、いきなり前触れもなしに褒めるようなことを言うから……。
こういうの慣れてないし、それにさっきまでのなんて言うか、空々しい不遜な態度と緩急の差がありすぎて、反応に困る。
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