俺様副社長に娶られました
わたしは赤くなっていることをまたからかわれないように、横に垂らした髪を耳に掛ける振りをして顔を隠した。


「さっきの質問だけど」


スラックスのポケットに両手を突っ込んで立つ、というなんの変哲もない立ち姿すらモデルのように様になってる創平さんが、ついでのように言った。


「俺が君を知ってたか、ってやつ」
「あ、ああ……はい」
「カウンターから一目見てすぐに分かったよ。川原酒造のお嬢さんだって。きっと資金援助の話を聞いて、うちの店がどんなところかを視察に来たんだろうな、って」


やっぱり最初から知ってたんだ……。
自分だけが腰を抜かすほど驚いたのが、きまりが悪い。


「ほっとけなかったからあの場でさらったけど」


黄昏に染まりつつある風に前髪を揺らした創平さんはあまりにも美しくて、わたしの目線を易々と奪う。


「悪い男に引っかかっちまったな」


瞬きを忘れ、放心するわたしを見て、創平さんはこらえるようにクッと笑った。

きゅんと掴まれたようにきつく疼く胸の痛みの正体がなんなのか、わたしはちっともわからなくて、ただとにかくこの先創平さんと共に生活するということはかなり神経がすり減るな、と思った。

それは難儀ではあるけれど、不思議と嫌ではないなという複雑な感情を抱いた。





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