俺様副社長に娶られました
「川原酒造の再建には出来る限りの対応をしていきますし、沙穂さんのことは必ず大切にすると約束します」


頼もしい言葉に、お父さんはすっかり安心したように肩の力をホッと抜いた。


「ありがとう、創平くん」


これが親の前だけの姿で、紡がれる言葉が空言だったとしても。
わたしは創平さんの自信に満ち溢れた言動に、胸のすく思いだった。

本心じゃないかもだけど……。
蔵のこともわたしのことも、親の前で〝大切にする〟ときっぱり言い切ってくれたことが嬉しい。

お父さんを見送ったわたしは心をポカポカさせながら、創平さんの案内でマンションに入る。
エレベーターに乗り込むと、どんどん空に近くなってくる。
階数が上がるのと同時に、わたしの胸の鼓動も速く、細かくなる。


「ここだよ、どうぞ」


一軒のドアの前で足を止め、創平さんはドアを開けてわたしを招き入れた。


「お、お邪魔します」


さぞや素敵なお部屋なんだろうな、と胸を高鳴らせ、緊張しながらモデルルームのような世界を想像していたわたしは、いざリビングに足を踏み入れて絶句した。


「……ハウスキーパーさんとか、雇ったりしないんですか?」


どうやら創平さんは、生活の全てをリビングで過ごすと決めているらしい。

革張りでお値段も張りそうなソファには毛布が丸めて置かれているし、テーブルにはお仕事で使うものなのか大量の資料と、パソコンなど電子機器の配線が絡まり合っていて、床にも雑誌が散乱している。

すごく広くて窓は大きく、システムキッチンもシンプルな家具もお洒落で素敵なのに。


「他人に部屋に入られるなんて、考えられない」
「潔癖……じゃあ、ないですよね」


この空間を見れば一目瞭然。
不衛生ってわけではないんだけど……。片付けのしがいがありそう。


「っていうか、今日わたしが来るって知ってたんですよね……?」


創平さんは答える代わりにただムスッとする。


「せめて共用のスペースは片付けさせてください。もちろん創平さんのプライベートな空間であるお部屋には絶対に手を付けませんので」
「好きにしてくれ」


……わたしのこと、家政婦代わりにしようとしてます? ってくらい、創平さんは食い気味で言下に答えた。

不満そうな顔つきで創平さんがお仕事用の資料を片付けている間に、わたしは使ってもいいと言われた一室に荷物を運び入れ、荷解きをした。
作業が終わって引っ越し屋さんが帰る頃、だいぶ片付いて生活しやすくなった。
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