俺様副社長に娶られました
「今夜からは、自分のお部屋のベッドで寝てくださいね」


洗濯機を回しながら、飲みかけのペットボトルを洗浄してゴミの仕分けをする。
それからてきぱきとソファに置きっぱなしだった毛布を畳んで、天気のいい日に干したいな、なんて考えていたとき。


「一緒に寝てくれないのか?」


床に膝をついて書類整理の作業をしていた創平さんは、窺うような目でわたしを見上げる。


「っ、急、急に言われても、無理です!」


言いながら焦って手を動かしたら、毛布は必要以上にコンパクトになった。


「なんだ、残念」


だなんて、そんな気なんて毛頭ないとでも言うようなからかうような声で言い、創平さんはクッと笑う。


「それより、お夕飯はどうしますか?」


話題を変えたくて、わたしは早口で言った。


「大抵仕事中に外でとることが多いんだけど、今日はデリバリーにするか。疲れただろ」
「あ、はあ」


気を遣ってくれているのかな?
パソコンを操作して、創平さんはお洒落なスペイン料理を注文してくれた。

洗濯と掃除を一通り終えた頃、窓の外は真っ暗になっていて、わたしたちは床に座ってパエリアやオムレツを食べた。


「創平さん、朝ご飯はどうしてますか?」
「今、夜飯食ってるだろ。あとで考えろ」
「え、でも冷蔵庫を見たところ食材も無さそうですし、早いとこ買い物に行かなきゃですから」


空になったふたり分のグラスにペットボトルの水を注ぐ。
フォークを置いた創平さんが、水を一口飲んで言った。


「料理とかできるのか? 不器用そうだけど」
「で、できます! うちでは仕込みのときはお母さんも蔵を手伝っていたので、わたしがご飯の準備をしていましたし」


大層なことでもないのに胸を張るわたしを、創平さんはさほど関心が無さそうな目で見た。


「じゃあ、納豆」
「えっ!」


納豆菌は麹の大敵だ。
微生物の中でも生命力が強いから、麹室に持ち込むと大変なことになる。麹菌より繁殖して、納豆酒になっちゃう。

わたしはほとんど納豆を食べたことがない。
食べる分には 、別にそんなにお袈裟に避けなくてもいいのだけれど、酒蔵の娘としては、ちょっと……ね。
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