俺様副社長に娶られました
「あの、納豆は、ちょっと……すみません」
「じゃあヨーグルト」
「……よ、ヨーグ……」


乳酸菌やほかの発酵食品だって注意してたから、わたしには縁遠い食べ物その②なんですけど……。


「創平さん、わざと言ってます?」


頬を引きつらせながらもなんとか笑顔をキープして聞くと、飄々とした顔で創平さんは言った。


「君がコロコロと表情を変えるのが面白くて、ついね」


口元を手で押さえ、こらえきれない様子で創平さんはついに破顔した。


「そ、そんなに笑うなんてひどいです……」
「ははっ、ごめんごめん」


完全にからかってる……。
わたしは頬を膨らませ、テーブルのお皿の上に残っている料理を平らげた。

食事が終わり、わたしが後片付けをしてる間に創平さんがバスルームを使った。
共同生活する上で、気を遣う問題のひとつだ。明日からも上手に時間をずらして使うようにしなきゃ。


「沙穂」


実家から持って来たエプロンを外していると、首に掛けたタオルで髪を拭きながら創平さんが戻って来た。


「空いたぞ、バスルーム。お湯溜めるか?」
「いえ、シャワーで大丈夫です。ありがとうございます」


そそくさと部屋に戻り、着替えを持ってバスルームに向かう途中でリビングを覗いたら、電気は点いているけど創平さんの姿は見えなかった。
早々に部屋に引き上げたのだろう。仕事をしてるのかしら。

初めての他人の家のバスルームに少々手惑いながらシャワーを終え、脱衣所に出たとき。


「あれ? 無い」


バスタオルに包んでいたはずのパジャマの上の部分が見当たらない。
キャミソールと、パンツと下に履くズボンはあるんだけど。


「ま、いっか」


創平さんは部屋にいるだろうし、ここから自分の部屋にピューッと戻っちゃえば別に、真っ裸なわけじゃ無いしね。

過去の失態を前向きに捉え、わたしは着替えるとバスタオルを首に巻いて脱衣所を出た。


「髪は部屋で乾かそう。その前に喉渇いたな」


たしか冷蔵庫の中にペットボトルの水だけは大量に入っていたはず。
一本拝借してもいいかなぁ。
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