俺様副社長に娶られました
「……うるさい」


今度は背後からくぐもった男のものとみられる低い声が聞こえて、続け様の驚きに一瞬思考が停止する。

一拍間を置いてから、わたしは恐る恐る首を回して後ろを見た。まるでホラー映画のワンシーンのように。


「耳痛え」


溜め息まじりにそう呟き、顔を上げ、不機嫌そうに眉を顰めた。

ひ、人がいる……!
わたしは口を半開きにしたまま、相手を凝視して絶句する。


「もう少しゆっくりして行けよ」


腰に手を回したままベッドに肘をつき、男は起き上がる。スプリングが軋む音がやたら耳につく。


「えっ、あ、あのっ」


震える声で言いながら、俊敏に周囲を見渡したわたしは唖然とした。


「え__」


ここ、わたしの部屋じゃない……。
ベッドも、部屋の広さも明るさもなにもかもが全然違う。

これって……現実? それともまだ、まだ夢を見てるの⁉

どこをどう隠したらいいか正しく考えられずに、手を胸元で複雑に交差しながらわたしはパニックになって両目をギュッときつく閉ざした。


「君が両目を瞑っても、俺には丸見えだ」
「っ!」


身体中で太鼓みたいに鳴ってる音が、血流なのか心音なのかもわからない状態でわたしは立ち上がった。
布団をグイッと引っ張って、とにかく前を隠す。


「おい、待て」


しかし後ろ手を掴まれて、わたしはつんのめりに立ち止まった。


「やっ……! ちょっとあのっ」


離してもらおうと手を振ろうにも、捻ろうにも微動だにしない。
それどころか、グッと腕を強く引かれていとも簡単にベッドへと逆戻り。


「わわ!」
「こら、大人しくしろって」


カチコチに硬直するわたしの体を後ろからすっぽりと抱きしめた相手は、耳元で囁いた。
うなじをなぞるように甘く響いたその低い声に、背中がゾクッとする。
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