俺様副社長に娶られました
ピューッと自室に戻る予定を変更して、わたしは足音をなるべく立てないように慎重にリビングに向かった。
静かにドアを開け、キッチンの冷蔵庫に直進しようとしたとき。


「え? そ、創平さん?」


ソファの上でうずくまる大きなものが見えて、わたしは目を凝らした。
近づいてみると、毛布ではないらしい。人のような形をしている。


「ここで、寝ちゃったんですか?」


リビングで仕事の資料に囲まれて、作業しながら寝落ちっていうのがパターンなのかしら?
だいぶ忙しいんだなぁ。


「創平さん?」


でも、毛布はわたしが片付けちゃったし、ここで寝たら風邪を引かないかな。

そっと近づいて、すぐそばまで来たわたしは創平さんの寝顔を覗き込んだ。
これほどまでに整った顔を見たことない。この世のものとは思えない彫刻のような綺麗な寝顔だった。

すやすやと寝息を立てているので忍びないのだけれど、わたしは心を鬼にしてもう一度声をかけた。


「創平さん起きてください、部屋で寝ましょう」


これでダメなら肩を揺すろう、と思って、手を伸ばしかけたとき。


「__っわ!」


突然ハッとして起き上がった創平さんが、わたしの手を正確に掴んだ。パシッと乾いた音がした。

反射神経の良さに驚いて呆然としていると、眠気まなこを見開いた創平さんが一拍間を置いて虚ろな声で言った。


「君か……」
「すみません、驚かせてしまって。ちゃんとお部屋のベッドで眠った方が疲れも取れるかと思いまして」
「いや、俺の方こそ悪かった。家に人が居るって慣れなくて」


億劫そうにソファに座り直した創平さんは、わたしの手を掴んでいない方の手で髪をぞんざいに掻いた。


「シャワー浴びたのか?」
「へ? はあ」


こくりと頷くと、なにか考えるように鼻先を引っ掻いた創平さんが、パッと顔を上げてわたしの手を引っ張った。


「っええ!」


バランスを崩してつんのめりになって、真正面に座る創平さんにダイブしそうになったわたしは、どうにか両足にブレーキをかけてこらえる。


「ああ危ないです! 転ぶとこでした」
「意外と体幹いいんだな」
「はい?」
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