俺様副社長に娶られました



それから数日して、創平さんは春限定生酒を持って出張に行ってしまった。

引っ越して来た日に近々出張続きだと言っていたけれど、話を聞けばここ最近はほとんど地方に出向いているらしく、そこで店舗運営に関わる方々や新たに出店するデベロッパーとの打ち合わせ、会議や接待等々で休む暇がないらしい。

創平さんは仕事となると猪突猛進という感じがする。自分で見なきゃ気が済まない、自分で話を聞きたい、という前向きで積極的な精神が株式会社天川をここまで大きくしたのだろう。

今後はカフェバーの店舗数拡大の件で更に多忙になるという話を、わたしは朝食の際に創平さんから聞いた。

夕食は引っ越して来た初日以来、ずっとひとり。
創平さんは夜中の十二時を回ってから帰って来る。

仕事柄、職場で食べることが多いので夕飯は準備しなくていいと言われているし、起きて待っていることで逆に気を遣わせるといけないので、わたしは自分のベッドで寝た振りをして玄関のドアが開く音に毎晩耳を澄ませている。

その代わり、朝食を共にする時間を取ってくれている。
いつも途中で秘書さんから迎えに来ましたコールが掛かってくるので、わたしの出社に合わせた時間だと遅いのかもしれない。
それでもちゃんと隣に座って、わたしが用意した朝ごはんを食べ、わたしにわかる範囲で仕事の話をしてくれる。

出張は、地方を回って一週間の予定だと言っていた。
土曜の朝に旅立ったので、戻って来るのは土曜か日曜。

金曜日の夜、わたしはいつものようにリビングの床に座り、カツ丼を食べていた。
半分まで食べ終えたところで、テレビを観ながらソファに寄りかかる。


「ダイニングテーブルがあればいいのになぁ」


ただっ広いリビングにはソファとテーブル、テレビ台くらいしか無い。気を緩めるとすぐに仕事の書類の山にして、ソファを寝ぐらにしてしまう創平さんが居ないのですっきり片付いている。

カウンターキッチンとの間にダイニングテーブルがあれば、作ったものをさっと出して、並んでではなく真向きに座って顔を見ながら朝食がとれるのにな。

明日からの土日で、インテリアショップに見に行ってみようかな。


「いや、創平さんに相談してからの方がいいか。家具とかにはあまりこだわりはなさそうだけど、勝手に決めるってのもね」
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