俺様副社長に娶られました
「あの、こちらは特に変わったことはありませんでした。郵便物はあそこのカウンターの上にまとめています」


言いながら、テーブルにまだ落ちたままだったカツをさっと拾う。


「それから今夜、創平さんが戻って来るとは知らずに、その」
「大盛りのカツ丼食って寛いでたんだな」
「…………はい」
「ぷっ」


俯くわたしを見て、創平さんは吹き出した。
ひどい……たしかにデカ盛りだけどさ、余ったら勿体無いからで。


「あの春限定生酒、評判良かった。また会合や接待があったら買って来てもらえるか?」


まだ口の中に笑い声を含ませながら、創平さんはいつになく穏やかな眼差しでわたしを見た。


「あ、はい! でもあれ、買ったんじゃなくてもらったんですよ、慎ちゃんに」


わたしは単純だから、お役に立てるのであれば必ずまた買って来よう、と嬉しく思ったときだった。

創平さんの表情が硬化した。
穏やかさは一瞬にして消え、見たものを凍りつかせるような鋭い眼差しに豹変する。


「〝慎ちゃん〟?」
「あ、うちの蔵の杜氏見習いです。姉とお付き合いしてまして」
「ああ……」


どうやら合点がいった様子で、創平さんは頷いた。
あの、俺から許嫁を奪った男か、とでも思っているのだろうか。
不穏な空気が流れたような気がする。


「結婚祝いにって、持たせてくれたんです。あ、北極星ももっと貰って来ましょうか?」


場の空気を切り替えるように明るい調子で言ったわたしのそばに歩み寄った創平さんは、結び目が緩んでいたネクタイをシュッと外した。


「へえ、結婚祝い」


シャワーを浴びに行くのだろうと思い、一歩下がってドアの前で立っていると。


「それじゃあ夫婦らしいことでも、してみるか?」
「ふふ、ふうふ⁉︎」


目の前に立った創平さんは、鼻面ギリギリの距離まで接近し、わたしの頬に手をあてる。

前髪がちょうどさらりと額をくすぐるし、頬を撫でられながらも指先では耳の後ろに探るように触れるので、体の奥の自分では手が届かない部分がこそばゆくて仕方ない。


「っ……」
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