俺様副社長に娶られました
「えっ……あのっ、ちょっと……」


背中から伝わる体温に、ただただ困惑する。身をよじってもがけばもがくほど、拘束する腕の力は強くなる。

吐息が耳元を掠めるたび、体の奥がきゅんと締め付けられるような感じがして、なんだかものすごくこそばゆい。


「昨日は可愛かった」


チュッとリップ音を鳴らし、男はわたしの肩にキスをした。

慣れない行為に困惑し続けながら、わたしは狼狽した声で呟く。


「き、昨日、って……?」


捲れないように必死に毛布で抑えているわたしの胸のあたりをまさぐっていた男の手の動きが、ピタリと止まった。


「覚えてないのか?」


お、覚えてない……。

けれどもこの状況、この展開からなんとなく、なんとなくだけど昨日の夜なにがあったか想像がつく。

だってお互い裸だし、さっきから馴れ馴れしい態度だし。

わたし、この人と。

一晩、一緒に過ごした……?


「えっ、えええ⁉︎」


自分でも驚くくらいの瞬発力で、わたしはベッドの周りに散らばった洋服を拾った。
こんなに素早く動いたのは、たぶん高級純米大吟醸の四号瓶を足元に落としそうになったとき以来。

黒目をグルグル回しながら周囲を見渡す。

ベッドから降りると数歩分の段差があって、ラグジュアリーな皮張りのソファとダイニングセットがある、リビングのような空間があった。
シンプルだけど高級感溢れる落ち着いた色調の家具に、大きな窓。


「向こうだよ、シャワールーム」
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