俺様副社長に娶られました
翌日、創平さんと一緒にやって来たのはインテリアショップではなかった。


「こ、これは……」


素敵な庭園に囲まれた外国のお城のような景観が抜群の、シャインガーデンホテルの三階。一際広いバンケットルーム。


「沙穂、約束守れよ」


ややカジュアルな黒のセットアップにノーネクタイというシンプルな装いでもとっても素敵な創平さんは、目を輝かせるわたしを見て、うんざりとした風に言った。


「酒は飲むな、絶対だぞ」
「わ、わかってます!」


力強く答えつつも目の前に広がる光景に心躍らせているウキウキ加減を隠しきれないでいるわたしを、創平さんはあまり信用していないのか若干諦めモードで見た。

今日はここで新酒試飲会のイベントが行われるのだそうだ。
全国の酒蔵が腕によりをかけて大切に造った日本酒を紹介する。

参加するのは酒屋や飲食店のオーナーから、百貨店や大型スーパーのバイヤーなど様々で、すでに会場は数百人の人で溢れている。

酒処天の川で日本酒と料理とのペアリングを売りにしている創平さんは、各ブースで振舞われる試飲をじっくり香りを嗅いだり味わったりして吟味している。
わたしはとても真剣な表情で、蔵人さんに質問したりメモを取ったりしながら回る創平さんの半歩後ろをついて回った。

うち以外の蔵のことを知る機会はそうそう無いので、すごく興味深いしとても良い経験だと思った。
説明を聞きながらどんな味か想像したり、蔵人さんが手間暇掛けて作業している風景を思い描いたりして、本当に貴重な時間を過ごしているときだった。


「あれ? 天川さん?」


とあるブースにいた蔵人さんに声をかけられた。


「ああ、どうも、お久しぶりです」
「今日もお仕事ですか? ご多忙で大変ですね」
「いえ、今日はプライベートです」


年配の蔵人さんは創平さんに試飲を渡すと、新酒の説明を始めた。


「以前蔵見学に行かせてもらったんだ」


一通り聞き終えた創平さんが、わたしにそう耳打ちした。

わたしは酒造店の名前を見て、すぐに気がついていた。
ここの酒蔵は最新の温度調節設備を備えた四季醸造を全国でもいち早く取り入れて、醸造量を増やしていることで有名だ。


「プライベートということは、そちらは……」
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