俺様副社長に娶られました
「あれ? お姉ちゃん……?」


お姉ちゃんらしきホテルのスタッフが、派手な柄物のブラウスを着たメイクの濃い女性と話している。

わたしは身を乗り出してその様子を観察する。
どうやらお姉ちゃんはかなり一方的に話されて困っているように窺える。キョロキョロと会場内を見回して、助けを必要としているみたい。


「あの……どうかされましたか?」


居ても立ってもいられなくて、わたしはふたりに恐る恐る声をかける。


「沙穂!」
「あらあなた、こちらの酒造店のお方?」


女性が顎で指したブースには誰もいない。
わたしの登場に驚きを隠せないでいるお姉ちゃんの後ろの方に、話し込んで盛り上がっているグループが見えたので、きっとあそこにいるのではないだろうか。


「違いますけど……」
「今日は参加してませんけども、酒造店で働いているんです」


突然現れた余所者を、お姉ちゃんがフォローする。


「あら、酒造店で?」


女性は目を上下させてわたしを観察するように見た。


「これ、辛口じゃないんじゃないかって。試飲しても全然辛くないって仰ってて」


お姉ちゃんは試飲のグラスを手に取って、困惑した顔で言った。


「なるほど……」


こちらの酒造店で働いてるわけじゃないから、出過ぎた真似はしたくないし憚られるんだけれど、一般的な日本酒の甘口と辛口の説明だけならいいかな……。


「日本酒の甘口と辛口というのは、日本酒度と酸度の数値で決まるんです。アルコールが多いと比重が軽くなって水に浮きますから数値はプラスで辛口に、米の養分を多く残していると比重は重くなり甘口になります。アルコールが多くさらっとしているのが辛口で、米の養分が濃く残っているのが甘口という感じです」


説明し終えたわたしを、女性はキョトンとした目で見た。


「えっと、つまりその、食べ物の辛さとかとは違って、あくまでも数値で分けているのですごくフルーティーな香りのものでも辛口に分けられているものもあるんですよ」
「沙穂、ありがとう!」


説明し終えたわたしに、ハラハラしながらお姉ちゃんが小声で言ったとき。


「ふうん。あなた随分お詳しいのね。一緒に飲みながら話さない? 私、飲食店をオープンさせる予定だからもっとほかのお酒についても詳しく聞きたいわ」
「えっ」
< 43 / 117 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop