俺様副社長に娶られました
強引に腕を掴まれて、意外と腕力が強い女性に引きずられるようにして歩く。


「申し訳ありません、わたしは体質的にアルコールが飲めませんで……」


それに創平さんとも約束したし……。

どうにかやんわりお断りしたくてそう言うと、女性はピタリと足を止めた。


「あなた、お酒が飲めないの?」


目を真ん丸に見開いて、女性は口元を歪める。


「お酒も飲めない方に、とんだ恥をかかされちゃったわね」


皮肉めいた口調で言って、女性は眉根を寄せて笑った。

その通りだ。酒蔵の娘のくせにって今までもよく言われたし、実際創平さんにも言われた。
飲めなくても日本酒が好きだし、うちの銘柄に誇りを持ってるから別に他人にどう言われても気にしてなかったけれど。

なんだか今日はすごく惨めで、結構こたえる。


『へえ、それで嫁いだんだぁ』


そっか、わたし。
心の中がもやもやしたのは、惨めだったからなんだ。

愛のない結婚をした、可哀想な娘だって見られたことが。


「__失礼」


霞みがかっていた視界を、黒い服が遮った。


「うちの妻になにか?」


わたしと女性の間に割って入るように現れたのは、創平さんだった。
掴んだままだった女性の手を、わたしの腕から引き離す。


「か、株式会社天川の副社長⁉」


女性は創平さんのことを知っているらしい。
先ほどまでの嫌味っぽい目つきを軟化させ表情を晴れやかにしたと思ったら、今度は瞬く間に渋面を作る。


「うちの妻って……、え! ご結婚されてたんですか⁉︎」
「ええ」


すんなりと頷いた創平さんは、狼狽するわたしの背中に優しく手をあてる。


「用が済んだのなら返してもらいますね」


口をあんぐりさせたまま石のように動かなくなってしまったその女性に一礼して、創平さんに支えられるようにしてわたしは歩く。


「創平さん……、さっきも思ったんですけど、まだ入籍してないです」
「細かいことは気にすんな」


……わたしは気にします。
周りの目も、すごく気になります。

創平さんは背が高くて容姿も整っているからこういう場でも目立っていて、女性からの視線を集めてしまう。

こうして隣を歩いてたら、周りからどう見られてるかなって不安に思ってしまう。あまりにも釣り合わないから。
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