俺様副社長に娶られました
「ほら、捕まって立って?」
「ごめん、お姉ちゃん。でも床は汚れてないから。全部わたしが被ったから。はは」


もう笑うしかない。
創平さんもさぞかし恥ずかしいだろうな。わたしのことを妻だなんて紹介するんじゃなかった、って後悔してかもしれないな。

卑屈な気持ちに拍車がかかる。
より一層惨めになりながら、お姉ちゃんが差し伸べてくれた手に捕まろうとしたとき。


「穂花さん、それは俺の役目ですから」


その手を掴んでグイッと強引に引っ張った創平さんは、わたしの体をひょいっと抱き抱えた。
不意打ちで、いとも容易く担がれたことに驚いて、わたし声も出せなかった。


「怪我は?」


両目をきつく閉じ、創平さんの肩にしがみつきながら小刻みに首を振る。


「すみません、うちのがお騒がせして」


と、周囲に平然とした面持ちで言った創平さんは、次にわたしの耳元で吐息交じりに囁いた。


「ほんと、手ぇかかるやつ。」
「……っ」


もう、ぐうの音も出ません。


「天川さん、すみません」


申し訳なさすぎて言葉も出ないわたしに代わって、お姉ちゃんがオロオロしながら何度も頭を下げる。
すると、創平さんは事も無げに言った。


「穂花さんが謝ることではありません」
「で、でも、そそっかしい妹が天川さんにご迷惑をおかけしているのが見ていて申し訳なくて……」
「これが沙穂の通常運転ですから。問題ありません」


創平さんが泰然とした様子で言うと、お姉ちゃんは閉口し、ただ頬をぽっと赤く染めた


自立していてカッコよくて、いつも颯爽としたイメージのお姉ちゃんが、こんな可愛らしい反応をするのがなんだかすごく意外だなぁと思いながら、わたしは埋めていた創平さんの肩から顔を浮かせてこっそり見た。

仕事に戻るお姉ちゃんに別れを告げ、やっと創平さんに降ろされたわたしはロビーのソファに座る。
創平さんが濡れたわたしの頭を、ハンカチでポンポン拭いた。


「服はそんなに濡れてないな」
「はい、すみません……。また、お酒で失敗してしまいました」
「さっきのは失敗じゃないだろ」


わたしの深く反省する気持ちを一蹴するように、向かい合って顔を見合わせた創平さんは訳知り顔で続ける。
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