俺様副社長に娶られました
「俺に水を持って来てくれたんだろ?」
「……はい」
「たしかに調子に乗って試飲しすぎた。体調が優れないって、良くわかったな」


詫びるともつかない口調で創平さんは言った。

迷惑をかけてしまった恥ずかしさや申し訳なさと、こんなわたしをフォローしてくれる優しさに対する嬉しさとが心の中で交錯する。
いや、たぶん嬉しさの方がちょっとだけ勝ってる。

青白い顔をしているなと思ったのは、いつもわたしがふたりでいるとき、創平さんの顔をチラチラ盗み見ているからで。
創平さんが寝る間も惜しんで仕事に忙殺されていると、まだ浅い同居生活の中でわかっているからだ。

わたしは創平さんがそばにいてもいなくても、毎日創平さん中心に過ごしている。
創平さんがそれを知ったら、重いと思って引いたりしないだろうか。

こういうとき、恋愛経験があればもっと余裕を持って対応できるのだろうけど。
わたしにはその経験がないから、ただ自分の気持ちに従うしかない。


「あの、創平さん。今日は早く帰って休みませんか?」
「それ、誘ってんの?」


悠長に膝の屈伸をして、わたしの隣に座った創平さんがからかうように言う。


「ち、違います!」
「冗談だよ」


声を張り上がらせるわたしになど一切お構いなしに、グッと両腕を天井に伸ばした創平さんは平坦な口調で言った。


「でもまあ、そうするか」
「お夕飯は、なにか栄養あるものを作りますね」
「栄養つけて盛らせる気な」
「っ創平さん! いい加減にしてください!」


砕けた口調にしびれを切らして腰を浮かせたわたしを、創平さんは満更でもないといった様子でふっと笑った。


「明日も行くところがあるから、今日は沙穂の言う通りにして体力回復させるか」


え、明日も……?

立ち上がった創平さんが歩き出したので、わたしも急いであとを追った。





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